アメリカで苦戦中の筒香嘉智…本人の自由なはずなのに、日本の野球ファンや評論家に「日本に帰ってこい!」と言われる理由を考えた

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野球の世界大会ワールド・ベースボール・クラシックで日本代表の4番を務め、日本球界を代表するホームランバッターだった筒香嘉智。これまでタンパベイ・レイズ、ロサンゼルス・ドジャース、ピッツバーグ・パイレーツと3球団から放出の憂き目に遭い、現在はトロント・ブルージェイズ傘下の3A、バッファロー・バイソンズでプレーしている。

筒香はレイズでの1年目の2020年、打率こそ2割以下と低迷したものの、コロナで縮小されたシーズンでホームラン8本、さまざまなデータでも打球速度などが速く、メジャーでも「次のシーズンではブレイクするバッターなのでは?」という評判を得ていた。

ところがレイズでの2年目、2021年シーズンでは開幕当初から成績が低迷し、放出されたところをドジャースに拾われる。しかしドジャースでも目立った成績を残せず3Aに降格となり、そこで復調したことでピッツバーグ・パイレーツでのメジャー契約を獲得、同年シーズン終盤から主軸となって打率.268、ホームラン8本、打点25、OPS.883と好成績を残し、契約延長を勝ち取った。

開幕4番でスタートしたパイレーツでの2022年シーズンだったが、またしても成績が低迷し、8月にDFA(メジャーで出場可能な40人の選手枠から外される)となり、その後ブルージェイズとマイナー契約を交わして、現在は傘下3Aのバッファロー・バイソンズにいるわけである。

野球ファンから「日本に帰ってこい!」と言われる筒香

僕自身は彼が横浜高校のときから注目していて、地元ベイスターズでドラフト1位で入団後、しばらく期待に応えられず、5年目になってから飛躍してベイスターズの4番に定着していき、ホームラン王・打点王などを獲得、2017年シーズンではベイスターズの日本シリーズ出場に貢献した姿を見てきたし、昔から「メジャーが目標」と言っていたので、メジャー挑戦してからも見守ってきた。

ところが、特に去年2021年からの傾向なのだが、筒香の成績低迷を受けて日本のネットを中心とした野球ファンや評論家からは「日本に帰ってこい!」と大合唱されている。

筒香のことを(一応)よく見続けている僕の場合、「筒香は簡単には帰ってこない」「おそらく『やれるだけのことをやった』と思えるまでは、海外でプレーし続けるはず」と捉えているのだが、いわゆる一般的なネットの野球ファンはそうではなく、「筒香は速球が打てないのでメジャーでは通用しない」「さっさと日本に帰ってくるべき」という意見が圧倒的に多い。去年からはある種、筒香バッシングのような様相を呈している。

しかし普通に考えて、海外でプレーし続けるか日本の球団に復帰するかは本人の自由のはずであり、「帰ってこい!」を大合唱するのは不思議ではある。個人的に、これがなぜなのかよくわからなかった。

しかし最近いろんな人の意見を眺めていて、なんとなくその心理がわかってきた。おそらく、「日本人選手(しかも野球日本代表の4番打者だった選手)がメジャーで通用しない姿を衆目に晒し続けるのは、『日本の恥』」という感覚なのかもしれない、と。

大谷翔平であれば、その活躍を喜ぶ。大谷は日本時代は、打者としてそこまで圧倒的な存在ではなかった(実は大谷は、日本では本塁打王も打点王も獲得しているわけではない)が、メジャーでホームランバッターとして開花し、先発投手としても優秀な成績を挙げている。大谷は「無双」「俺TUEEEE」しているので、問題ない。

しかし日本を代表する打者だった筒香嘉智、そして秋山翔吾や、先発投手だが菊池雄星のような、メジャーで結果を残せていない選手がいると「無双」ではないので、気持ちよくはない。アメリカで恥をさらすぐらいなら、日本プロ野球に戻ってきてくれないと日本の恥が拡大する、という心理なのではないか。こういった人々はある種、日本的な同調圧力や「恥」の感覚を、強く持っているのではないか、と思う。

筒香は、日本人の野球選手には珍しく、自分の意見をガンガン言うタイプだ。日本野球界の改革について、現役選手の立場ながら、日本外国特派員協会で会見を行って問題提起したり、その内容をまとめた著書を出版するなど、非常に「意識の高い」選手ではある。しかし、個人として立ち、どんどん発言していく人間が、結果を残せていないと途端に日本社会のマジョリティは厳しい言葉を投げつけてしまう。

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それ自体は仕方のないことなのかもしれないけれど、結果を残せなくなっていったからといって、彼のこれまでの発言や問題提起すら茶化して全否定してしまうのは、行き過ぎではないかと思う。いわゆるtoxic fandomの問題である。

筒香バッシングもtoxic fandomの問題ではないか

toxic fandamという言葉の意味は、CINRAに掲載された「テン年代の「ファンダム」の熱狂。SNSがファンとスターの景色を変えた」という記事に詳しい。同記事にはこうある。

2010年代後半のファンダム最大トピック。それは、加害行動に出る「トキシックファンダム」だ。この問題の注目度を上げたのは、2018年の『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』事件。新作に不満を持った『スター・ウォーズ』ファンたちが、同作でローズ役を務めたケリー・マリー・トランのInstagramに攻撃的・差別的コメントを投稿したという出来事が報道されている。トランはアカウントを削除した。こういったトキシックなファン行動は、定期的に報道される事象となった。

攻撃的なファンは昔から存在している。アーサー・コナン・ドイルが『最後の事件』でシャーロック・ホームズを殺し、ファンから脅迫の手紙が届いたのは19世紀だ。しかしながら、TwitterやInstagramで罵倒を送る行為は、手紙を書くよりずっと簡単だ。インターネットは攻撃的な人々に団結と発信の術を与えた上、彼らの欲望を盛り上げる機能を持っていた。そして、ソーシャルメディアを通し、セレブとファンは近くなりすぎた。

ファンは対象に対し、こうした過剰なバッシングに出てしまうときがある。同記事は、以下のようにまとめている。

インターネットは、少数派の意見がマジョリティーかのように錯覚する「多数派幻想」現象を起こしやすい。『Washington Post』よる調査では『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』関連ツイートにおける攻撃的ポストの割合は6%に過ぎなかった。攻撃的なファンが目立つ時こそ、同意しないファンたちは対象へのサポートを表明し、ファンダムのライトサイドを率先的に発信するべきなのかもしれない。

実際これはそのとおりな部分があり、筒香に対してはネットの野球ファンが集う掲示板「なんG」でバッシングが盛んに行われ、それが野球系まとめサイトに(支持する声を消した編集をした上で)掲載され、やがてこうしたバッシング的な意見がマジョリティの意見であるかのように思われ、実際に多数派を形成していってしまう。

だから、小さい声かもしれないけれど、僕自身も筒香へのサポートの気持ちを表明しておきたい。

ベイスターズで、地元高校出身のドラフト1位として入団し最初はなかなか期待された成績を残せず、迷っていた姿を見てきた。それでも5年目に飛躍し、低迷していたベイスターズをAクラスに押し上げ、日本シリーズ出場まで導いた。ワールド・ベースボール・クラシックにも日本代表の4番として出場して、優勝まではできなかったがチームのベスト4進出に貢献した。因習にとらわれる日本野球界を改革するべく勇気を持って自分の意見を発信してきた。そして2020年以降、アメリカでもがく日々も見てきた。野球選手として、一人の人間として、その姿勢は非常にチャレンジングで、尊敬できる。

これまで逆境を跳ね返してきたように、今の逆境も粘り強く取り組んでいけば、きっと出口を見つけられるはず。野球まとめブログではバッシングが多いが、Twitterや、YouTubeの試合まとめ動画(※)のコメントなどでは、変わらず挑戦を応援しているファンもたくさんいる。聞こえてくるネガティブな声はシャットアウトして、どんなかたちであったとしても、自分の思うように挑戦を続けてほしい。

……ということで、筒香へのサポートの気持ちを表明しておいた。メディアでは「来季は日本に帰国するだろう」みたいな予測記事ばかりで、「挑戦をする人を見守る」という“観客のスポーツマンシップ”に欠けるものばかりで、どうにもバランスが悪い。「こういうことを思っている人もいるよ」ということを表すべく、文章にまとめてみた。さくっと書くつもりが思ったより長くなってしまったが、今回は以上です。

(了)

※ちなみにあれって合法なのかどうかよくわからないのだけど……まあ、それを言ったらこの記事のアイキャッチはBuffalo BisonsのTwitter投稿動画からのスクショなのだが……。

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