2022ベイスターズ終戦を前向きに捉えるナラティブ

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2022年10月10日、阪神vs横浜のクライマックスシリーズ・ファーストステージ、1勝1敗で迎えた第3戦だったが、残念ながら横浜は負けてしまった。

阪神は、近本の集中力、矢野監督の思い切りのいい采配、キャッチャー梅野の試合の流れをうまく読んだリード(梅野は流れを切るタイムをとるのが本当にうまい)、そして今シーズン急成長した湯浅のピッチングが素晴らしかった。

阪神ファンからは近本、梅野、矢野監督は文句を言われることも多いが、やはり非常に優秀な選手である。近本はバッティングでも貢献したが、センターライナーを好捕したとき。あれはダイビングしなくても捕れるのだが、あえて飛び込んで雰囲気をつくるという意図があったのだと思う。

かつて阪神はハマスタでの横浜戦を得意にしていたが、今シーズンのハマスタで阪神はあんまり勝てていない。それは横浜ファンが「阪神への勝ち方」を知りつつあったからだろう。最近のハマスタは、阪神に勝つための雰囲気作りができるようになってきていた。

逆に阪神ナインにとっては、「いかに自分たちのプレーで横浜ファンを盛り上げないか」が非常に重要になっている。ハマスタの雰囲気に「水を差す」ためのプレーが必要だということは、近本も認識していたはずだ。相手がファインプレーをすると、ハマスタのファンもだんだん熱を失っていく。そういうところも含めて、近本は勝つためにやるべきことをやったのだと思う。

そして湯浅に「楽しんでいけ」という言葉をかけて送り出したという矢野監督。レギュラーシーズンでは横浜が2位で阪神が3位だったが、チームとしての総合力はまだまだ阪神が上だと感じる。チームとしての総合力というのは、レギュラーシーズンだけでなく、負けたら終わりの短期決戦=クライマックスシリーズで勝ち抜ける集中力があるかどうか、というところにもある。その両方がないと上には行けないからだ。

技術的には、湯浅の角度のあるストレートが本当に素晴らしい。基本的に近年、「ストレートに角度をつける」というのは流行っているのだが、湯浅の角度は本当にすさまじい。メジャーでもここまでの角度をつけられるピッチャーはそうそういないかもしれない。レギュラーシーズンでは中継ぎエースだったが、これから抑えになっていくだろう。

横浜は、おそらく山崎康晃はこの試合が日本での見納めになるはずだ。今は、シンカー気味に落ちるスプリットに加えて、カット気味に落ちるスプリットも操っているように見える。これに、もしかしたらカーブを加えていけると、メジャーでも通用していくのではないかと思う。逆に言うと以前のようなストレートとツーシームだけでは最初は通用するかもしれないがだんだん厳しくなってくるので、少しモデルチェンジした今の姿をメジャーでも披露できるかがカギである。

チーム全体としては、三浦監督の采配は短期決戦にはハマっていなかった。それは最初だから仕方のないことだろう。2017年の日本シリーズまで進出したときの監督だったラミレスのように、ことごとく采配を当てることができていない。経験不足というのも大きい。ラミレスだって一度目のCSでは広島に勝てなかった。

個人的には、キャッチャーが課題だと思う。嶺井は短期決戦での結果も残しているが、戸柱はまだまだ。本来なら嶺井か伊藤光を使ったほうがよかったと思うが、それは起用した三浦監督の責任である。戸柱本人には、もうちょっと成長の余地があると思う。たとえば相手側の梅野がどんなタイミングでタイムを取っているかなど、試合全体をコントロールできるキャッチャーとはどういう存在なのか、そういう部分を落とし込んだほうがいいのではないかと感じる。

ところで、今シーズンの伊勢と入江は本当に良かった。リリーフは申し分ない。野手陣は、最後にオースティンが打てたのはよかった。特に関根、森、楠本らに「短期決戦での、ここ一番での集中力」「逆境を跳ね返す力」をつけていってもらうのを期待したい。

個人的には、今年はこれで終わってよかったと前向きに捉えるしかない。2017年のときは結局、CSから日本シリーズまで全試合観てしまった。それで進まなかった仕事を、まだやり残している。今年はもういいかげん自分の人生を生きないといけない。

プロ野球観戦というのは、モブになれるのがいい。「自分が何をすべきか」「どうやって生きていこうか」みたいな自己実現にまつわる悩み、ウルリヒ・ベックが言うところの「個人化」した社会で生きることの悩ましさから解放される時間である。

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プロ野球観戦は、自分は何も関与できず、ただ応援したり祈ったりするだけ(球場にいればまた違うけど)。だがそれがいいのだ。自分とは何の関係もない他人を応援することによって、会社員としての自分とか、親としての自分とか、そういう自己やアイデンティティにまつわるプレッシャーから解放される時間ーーそれがプロ野球観戦の良さである。自己からの解放。それは安らぎであると同時に、先延ばしでもある。

自分的には、今年のベイスターズのCS敗退は、「あなたは他人ではなく自分の人生を生きなさい(※今年は)」という神からの啓示として捉えていく。

(了)

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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