市民のための、東京都新型コロナ対策サイトの読み解き方

メディアの話

2021年8月2日現在、ニュースもネットもコロナで持ちきりになっている。昨日、日曜ぐらいから街から急速に人が減った感じがする。あと個人的にはここ数日、救急車の音もけっこう気になる。メディアの報道やネットに影響されて自分が過敏になっているからかもしれず、実際のところはよくわからない。

さて、今は一体何が起きているんだろう。「新規感染者数」ではなく「重症者数」「死者数」の数字を見ようという話もけっこう大きくなってきてはいる。

市民が持っておきべきメディアリテラシーとして、下記の2つが重要だということがこれまでもしばしば言われてきた。

①一次情報を自分で見てみること
②二次情報は速報ではなくロングスパンの論考を参考にすること

今回はこういったメディアリテラシーの原則に即して、新型コロナウイルス関連のデータの見方を、僕の住んでいる東京都を例に簡単に書いておきたいと思います。

統計の読み方の基礎

大学時代に犯罪統計を自主的に学んでいたとき、「検挙数」をみるよりも、「凶悪犯」「殺人」の件数を見たほうが治安が悪化しているかそうでないかの指標としては正確性が高いということを学んだ。

たとえば触法少年の検挙数が激増しているときに少年犯罪が激増しているかというとそうでもなく、少年による殺人の件数がすごい減っていたりすることがあるわけである。

こういう数字の乖離がなぜ起こるかと言うと「警察ががんばったから」ということが大きかったりする。立ち小便や万引きなどの軽犯罪まで厳しく取り締まったり、警察官の数を増やす、巡回を増やすと検挙数は激増するのだ。なので何か統計数字を見るときは、犯罪統計でいえば殺人や強盗の件数など、よりクリティカルな数字を見るほうが実相がつかめるというのはある。

「感染者数」と「検査陽性者数」

コロナにおける「新規感染者数」は、しばしば指摘されているが、正確には「検査陽性者数」である。マスメディアで使われる「感染者数」という表現は正確ではない。この違いについて詳しく知りたい方は下記の記事を参照してください。

またメディアが日別の「新規感染者数」(正確には検査陽性者数)を報道することにはもうひとつ問題があって、今の「新規感染者数」はカウントの際に、病院の稼働状況にも相当影響されてしまう。そのため、政策を議論する際にベースとすべきデータではないのだ。

ではなにを参考にすればいいかというと、「発症日別」のグラフである。

東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイト

東京都は新型コロナの実データをサイトで見やすくまとめている。これである。

都内の最新感染動向 | 東京都 新型コロナウイルス感染症対策サイト

ちなみに僕はこのサイトをスマホでブックマークしていて、コロナ関連でニュースが出たときとかにちょくちょくチェックしているので、おすすめです。

発症日別のグラフの見方

このサイトでは、トップページに「報告日別による陽性者数の推移」のグラフが載っており、これがメディアで報道される「新規感染者数」と同じものだ。

しかしそのグラフのすぐそばに、「発症日別の陽性者数の推移はこちら」というボタンがある。

ここに行くと、発症日別のデータを見ることができる。こんな感じになっている。

上に貼ったグラフを見ると、ここ5日間で新規発症者数がすごく下がっているように見えるが、もちろんそんなことはない。国立感染症研究所の2021年6月29日の発表によれば、被感染者が感染者と接触した日から発症日までの日数(潜伏期間)は、平均で4.82日、つまり約5日程度である(ソース:積極的疫学調査の情報に基づく新型コロナウイルス感染症の潜伏期間の推定)。なので直近5日のデータはあまり参考にならないと思っておいたほうがいい。

逆に、発症日から平均的にマイナス5日をすると、感染者とのおおまかな接触日がわかる。

2020−2021年の年末年始の事例を見てみる

日本で今のところコロナが一番猛威をふるった(重症者数も死者数も多かった)のは、こないだの年末年始である。

感染症のグラフをみるときは「ピークアウト」という概念が重要だ。インフルもコロナも、あるとき感染がピークに達するとそこから急激に落ちる。グラフがピークアウトして一回下がったら、そこから持ち直して急激に上がるということはしばらくないので、ひとまず安心はできる。これはコロナで感染爆発した国のグラフを見てもはっきりわかる。

ではこないだの年末年始のピークアウト状況を、東京都コロナ対策サイトの「発症日別」グラフでみてみよう。

これをみると、年末年始の発症日別陽性者数のピークは1月4日で、1,525人である。ここからマイナス5日すると、おそらく感染のピークになった接触日は12月30日である。緊急事態宣言の発出は1月7日なので、すでにピークアウトした一週間後に緊急事態宣言が出たことになる。

ちなみにこれは、感染症の専門家の人たちもかなり言っていることなので僕のオリジナルの意見ではない。ただ、尾身氏とか西浦氏とか、北村氏、森内氏とかメディアにたくさん出てる専門家の人たちは、全然そんなことは教えてくれないな、とは思います。

接触日ピークと死者数ピークの期間

今回のデルタ株の流行に際して、ピークアウトがいつになるかも気になる。が、それがいつになるのかは、まだわからない。発症日別グラフの形が正確になるのは最低5日以上経ってからで、基本的には2週間経たないとわからないと思ったほうがよいかと思う。

気になるのは、もっともクリティカルな数字である「死者数」である。東京都コロナ対策サイトには、死亡日別の死亡者数の推移もある。トップページの検査陽性者の状況の表のなかに、「死亡日別の死亡者数の推移はこちら」というボタンがある。

こちらもメディアのいう「感染者数」と同じように、「本日死亡何人!最多!」といったような報道が流れるけれど、それは報告日であって、実際の死亡日ではないので、やはり「死亡日別」で最多なのかそうでないのかを、少し時間を置いてから見る必要がある。

これも年末年始のデータを見てみよう。

年末年始で一番死者が多かったのは、1月31日の38人である。ここから死者数もおおむねピークアウトしている。

つまり、接触日ピークが12月30日なので、死者数がピークを迎えるのは接触から約1ヶ月後ということになる。

なお、日本でこれまでコロナ死者数がもっとも多かった期間は1月初め〜2月末までで、毎日の死者数がだいたい10人以上、最大で38人だった。

なお、東京都全体での毎年の全死因での死者数は、2019年のデータが最新だが、120,870人である。つまり一日平均で330人が死亡している計算になる(ソース:令和元年東京都人口動態統計年報(確定数)|東京都)。

一日330人が死ぬというとき、コロナ死者数が一番多かった時期で一日10人〜38人というのを、多いと見るか、少ないと見るかは人によるかなとは思う。なお直近1ヶ月(6月30日〜7月29日)でのコロナによる一日あたり死者数は0〜4人となっている。

一旦のまとめと余談

今回のデルタ株がいつピークアウトするかはよくわからない。少なくともメディアの発表する「感染者数(正確には検査陽性者数)」よりも、発症日別陽性者数を見たほうが、統計としても正確であるし、あまり一喜一憂しないで済む。結局のところ、ある程度の時間が経過しないと感染状況がどれぐらいヤバいのかはよくわからないのだ。

今回のデルタ株の流行に関しては、数字が上がり始めているのが発症日ベースでは7月20日前後、接触日ベースでいうと7月15日前後である。そうなると年末年始と似たペースであれば、死者数が上がり始めるのは8月15日前後ということになる。ただ、デルタ株に関しては接触→感染→重症化のスパンが従来株よりも短いという説もあるので、もう少し早く死者数が上がり始める可能性もある。

自分としては、しばらく発症日と死亡日のグラフは注視しようかなという気はしている。その段階で死者数が大きく上がっていなければ「デルタ株は感染力は強いが弱毒」というふうにみることができる可能性もある。もちろん、そうでないかもしれない。

ちなみにこういったオープン情報を活用した情報の読み解きを「オープンソース・インテリジェンス」と言ったりする。近年、各国の諜報活動でわりと注目されている概念である。最初は「陰謀論」として片付けられていた新型コロナウイルスの武漢研究所発祥説が、米大統領バイデンなどにも注目されるきっかけをつくったDRASTICがやっていたことも、オープンソース・インテリジェンスだった。

DRASTICほどハードなものではなくても、そして感染症の専門家でなくても医者でなくても、メディアに振り回されずに自分で調べて考えてみることはできる。何か気になることがあったら一次データをちゃんと見てみるクセをつける。これは市民だれでもできることだ。ので、コロナ関連のニュースでドキッとすることがあったら、ぜひ東京都のコロナ対策サイトを見てみるのをおすすめします。(了)

おまけ:

最近、海外のコロナワクチンのいろんなデータを見てますが、ブレイクスルー感染に関連した話がなかなかにアレだなと思います。ただ確定的な情報とまではまだ言えないのでここでは書かないです。もちろん、すでに接種した人が過剰に何かを恐れる必要はないかなと思います。

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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