不良性について

社会科学・人文科学

先日、公園で運動していたら、中学生ぐらいの男子数人が広場を占拠してスケボーをし始めた。公園は自由に遊びに使っていい場所だし、別にスケボーが迷惑だとは感じない。ただ、スケボーっ子たちが遊び始めると「ここ、俺らが占拠するんで」みたいなオーラが出てしまうので、他の人はあまりそのエリアには立ち寄らないし、元いた人も立ち退くことが多い。

しかし僕は「公園は互いに迷惑をかけないかぎりおいて自由に使っていいもの」という市民社会の論理を強烈に内面化して(しまって)いるため、そういうオーラを無視し、普通にスケボー少年たちのすぐそばで腹筋とか腕立てを続けた。もし「ここはオレたちが使ってんだよ!どけよオラァ!」とか言われたら普通に戦う用意があったが、特に何も言われなかった。

で、インターバルのあいだは暇なので間近でスケボー少年たちを眺めていたのだが、彼らは男子中学生で、ストリートカルチャーであるスケボーに親しんでいるぐらいなので、いい感じにオラついている。本当は大切にしないといけない、おそらくは親に買ってもらったであろうスケートボードをわざと乱暴に扱ってみせたり、ちょっと肩を横に揺らせながら動いていたりする。

でも、そのスケボー少年たちは全員がマスクをしていたことに気づいた。不良性ってなんだろう? と思ってしまった。オラつきたい、不良ぶりたいのだが、マスクはちゃんとする。そういう社会のルールには従う。本気でオラつき、社会に反抗したいのであれば「俺らは、せめてスケボーしてるときぐらいはマスクしねぇぜ!」ぐらいやってほしい、と思ってしまった。

こんなことを思うようになったきっかけは、社会学者ノルベルト・エリアスの『文明化の過程』という本をパラ読みしたからだ。

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この本はクソ長い上に値段が高いので簡単には読めないのだが、ヨーロッパの過去のさまざまな社会について分析していて、まあ要するにこんなことが書いてある。

人間の所作、身体的な行為は、それぞれの社会の不文律、コードによって規定されている。

たとえばいきなり会社のオフィスで床に身体をつけてヨガを始めたら「おいおい」となるだろう。その場所にふさわしい行為というものがあって、それは特に細かくルールが規定されているわけではないが、私たちはなんとなくその場にどんなルールがあるかを把握し、自分たちの行為を自分で規制している。

でも、実は自分が勝手にルールを決めているだけで、本当はやっていいこともあるかもしれないし、実際にやってみたら「この場でそんな行為をするなんて見たことないけど、おもしろいね」と歓迎されることだって、あるかもしれない。

去年の大河ドラマ『いだてん』に出てきたスポーツの秘密結社「天狗倶楽部」は、大隈重信とかが出席している庭園パーティーに乱入してきて突然脱ぎ出し、ビールをラッパ飲みして、「T・N・G! T・N・G!」と謎の掛け声でパフォーマンスを始めたりする。そしてそのパフォーマンスを密かに楽しみにしている、杉咲花ちゃんみたいな女子のファン(オタク)がいたりする。この天狗倶楽部は放映当時、「明治時代にパリピがいるwww」ということでSNS上でも話題になっていた。脚本のクドカンもインタビューで「作り物として、ネタとして消費されるのが悔しい。実際に天狗倶楽部はこういう集団だった」と語っていた。

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※ちなみに前にかしゅーむくんに「『いだてん』観るならNHKオンデマンド入んなきゃですね!」と言われて、世間に周知する必要に気づいた。そう、僕が『いだてん』のBlu-ray BOXを買ったのは、現在『いだてん』はNHKオンデマンドでは見れないからなのだ。要はピエール瀧が出てるから『いだてん』の配信を自粛してるらしい。甚だトンチンカンなものだと思う。今みたいにオリンピック反対の世論が盛り上がっているときこそ、みんなに『いだてん』を観てもらったほうがいい。これを観ておくだけで、賛成するにせよしないにせよ、議論の解像度はかなり上がる。

ところで、不良というのは「かわいい不良」と「社会や集団の価値観を揺るがす不良」がいると思う。

スケボー少年たちは「マスクをせよ」という社会の圧力自体は疑っていないので「かわいい不良」だ。

しかし、高田馬場の駅前で「外飲み禁止」というのが掲示され、外飲みしている若者がいないか見張りに来る謎の都職員がいるなかで、それを無視して外飲みをしている若者たちは「社会や集団の価値観を揺るがす不良」だ。彼らの中には、「なんでこんなに行動を制限されなきゃいけねーんだよ!」という、ある意味徹底したリベラリスト的感覚を持っている人も多いだろうと思う。

こないだ一橋の野球部の同学年でオンライン飲み会をしたときに、取材もかねて高校野球のときの話をみんなにしてもらったのだが、愛知の某進学校に在籍していたT君は、坊主にするのを最初は拒否していたらしい。彼は大学でも、「冬に全員1000本はバットを振ろう」ということが部の方針として決まったとき、それを無視していた。でも、うまいから試合に出ていて、果ては全体MTGで「俺、1000本振るやつやってないのに、なんで誰も怒らないんすか。なんで試合に出すんすか」と言った。

そのときのことをT君に聞いたら、「(イキリすぎて反省はしているが、)何の効果もないのにとりあえずよくわかんないルールが同調圧力で決められるのがイヤ。野球と何の関係もない」と言っていた。たしかにな、と思った。野球がうまいかうまくないかは関係なく、変なことに対して「変だ」と言える強さは、発想次第で持てるとは思うのだ。自分は10代〜20代前半ぐらいまで、そこまでの強さを持ち得ていなかったなぁと反省する。

で、こういうことをやるのが、「社会や集団の価値観を揺るがす不良」だと思うのだ。不良であることが何でもカッコいいとは思わない。だけど、こういう不良性はなんかいいな、と思うのだった。

中野 慧 (Kei Nakano)

1986年生、ライター・編集者・ディレクター。PLANETSにてWebマガジン編集、株式会社LIGで広報/メディア事業を経験したのち現在フリーランス。過去に構成・編集を担当した書籍に『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(宮台真司編著、KADOKAWA/中経出版)、『ナショナリズムの現在』(小林よしのり他著、朝日新書)、『現役官僚の滞英日記』(橘宏樹著、PLANETS)、『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』(宇野常寛著、朝日新聞出版)など。現在は、PLANETSにて月イチで「文化系のための野球入門」を連載中。
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