ここ数ヶ月ほどニートをしながらゆらゆらと求職活動をしており、2月から某IT企業で編集職をやる予定です。なので出版業界またはカルチャー誌界隈から一旦去るのですが、これまで出版関連分野で働いていて疑問に思ったこと、(自分はまだ力及ばずですが)ここは変えて欲しいと思ったこと、その他の現時点で思っていることについて率直に書いておきたいと思います。
※以下に書くことは「こうすべき!」という強い主張や批判というよりは、「俺はこう思うんだけどみなさんはどう思いますか?」という問いかけです。とりあえず何か意見を言ってみることが大事だと思うのです。ご意見などあればぜひ、直接でも、質問箱経由などでも何でもよいのでレスポンス貰えれば嬉しいですm(_ _)m
遅い時間に働くのがクリエイティブ?
まずはちょっと煽りっぽい例なのだが、出版業界の人にありがちなコレ。「遅い時間に働くのがクリエイティブ」という感性。極端な場合「出社する時間?夕方4時くらいかなー」みたいな働き方をドヤ顔で自慢されたりする。身体感覚はもちろん人それぞれだとは思うんだけど、個人的には午前中に2〜3時間集中して仕事をしておくといろいろ楽だと思ってしまうタイプなので、「遅い時間に働いてドヤ顔」みたいな感覚は本当に謎。
また、これも非常に意地悪な見方な気がするが「普通のサラリーマンとは違って自由な感覚で働いているオレ」「作家的な働き方するオレ」みたいな自意識が見えるのも辛い。「作家に憧れるなら素直に作家を目指してみてもいいのでは?あんたサラリーマンじゃん」と思ってしまう。村上春樹だって朝ランニングしてから原稿書いてるわけだし、その発想のほうがむしろ新しいような気がする。
飲み会のあとにドヤ顔で会社に戻りがち
これも上記のと関連する。今やってるドラマ『きみが心に棲みついた』で、編集者役の桐谷健太が合コンのあとに「オレ会社戻るわ」って言って、会社戻ったら深夜なのにまだみんなガンガン働いているみたいなシーンがあった。本当にホラーだと思ったし「あるある」だなーと思った。個人的にはこういうアクティビティによって業界人臭を出す出版関係者には「うわぁ……」となってしまう。こういう描写に 「 J( ‘ー`)し 出版業界らしくていいわねぇ」なんてなっていてはダメなのだ。
▲きみが心に棲みついた 新装版 (上) (FEEL COMICS swing)
フリーランスとサラリーマン編集者の感覚の食い違い
そもそもサラリーマン編集者とタッグを組んで仕事するのはフリーランスのライターや作家、研究者であったり、デザイナーであったりという感じである。で、フリーランスの人たちは必ずしもカレンダーどおりに動いていない、つまり平日昼間=労働、休日(or平日深夜〜早朝)=労働しない、というリズムで動いていなかったりする。なので、フリーランスの人は土日に普通に仕事の連絡をしたりする。
漫画『バクマン。』でも、漫画家の主人公コンビが「編集者は休日は連絡つかないからな(呆れ)」みたいなことを言っているシーンがあった。ここには「人生すべての時間で仕事に命を賭ける俺らクリエイター VS 仕事と休息を切り分けるしがないサラリーマン編集者」みたいな対立構図に基づく自意識があると思ってしまう。
でも、そういう「人生すべての時間で仕事に命を賭ける俺ら」っていう自意識が、サラリーマンで構成される出版社に利用されていたっていう側面もかなりあると思う。漫画家はかつては特に、過酷な週刊連載で心を病む人も非常に多かったわけで。
基本的には、「仕事は仕事」という感覚はすごく大事なものだと思っている。サラリーマンの側は「フリーランサーは土日も働けばいい」と思い、フリーランサーは「サラリーマンは土日は働かないし連絡もつかないヌルいやつら」と思ってしまうのは、まさに「囚人のジレンマ」状態ではないかと思ってしまうのだ。
そうではなく「基本的に人間は土日(and平日深夜〜早朝)は休むもの」という共通了解をもとに仕事をするほうが皆が幸せになれるのではと思うがどうだろう。
もちろん、必ずしも土日(and平日深夜〜早朝)は休むのではなく、仕事をしていたいというフリーランサーもいると思う。それは例外として「自分はこういう例外的なタイプなんすよ」ということを言明する文化があったほうがいいんじゃないかとも思う。すべてに言えることだが「察してくれ」では自分も相手も幸せにならない。
メールとIM(インスタントメッセンジャー)を使うタイミング
個人的なことを言うと、自分もフリーランサー的な側面があるので、土日で頼まれていることが進んでしまって、進行管理役のサラリーマン編集者の人にさっさと連絡をしてしまうことがある。でも「メールは就業時間中に読んでくれればいいっすよ」ということも書いている。
「いや、だったら月曜朝にメールすればいいじゃん」ということになるかもしれないが、土日のうちにメールだけ送っておくと表向きは読んでない風で、こっそり読んでバックグラウンドタスクで対応を考える時間も大事だと思うのでそれでいいかなという感覚。自分がサラリーマン編集の立場だと、土日のうちに連絡だけもらっておいてこっそりメールは読み、バックグラウンドタスクで考え、自分が実際に手を動かしてレスポンスするのは月曜朝というそのパターンが一番リズムがよくて助かるというのもある。まあ、そのためにはやっぱり、「サラリーマンなんで土日は基本レスできないっすサーセン!」という表明が必要だとは思うが。
※フランスでは「勤務時間外メール禁止法」なんて法律もできているらしい。まあ勤務時間外のメールはけっこうストレスに感じる人も多いし、そのことに対する社会的な理解というのはここ日本でも広まっていていいのかなと思う。→「勤務時間外メール禁止法」成立で賛否渦巻くフランス WEDGE Infinity(ウェッジ)
個人的な基準として、仕事の連絡では就業時間外にメールするのは「なしよりのあり(ギリギリありの意)」だが、IM(インスタントメッセンジャー/LINEやFacebookメッセンジャー等のこと)での連絡はなるべく就業時間外に送らないようにはしている。仕事に関係ない雑談ならOKかなという感じである。(とはいえこないだ社員編集氏に金曜夜に長文LINE送ってしまいましたすみません……。あと、社内的にも緊急連絡を業務時間外に送ることもできたら避けたい。業務時間外にメールが飛び交うのが普通になってしまう組織はヤバイ。そこは線引きがマジで大事だと思う)
まあこのへんは正直、IMの仕様の問題である。LINEやFBは既読確認ができてしまうからそのへんの負担感が生まれる。メールは既読しているか否かがわからないから、あまり気を遣わなくても使えるので、仕事上のコミュニケーションではまだまだ有利な部分がある。(メールにつきもののタイトル付けとか、いらん時節の挨拶とかは今後積極的にカットしてもいいとは思うがそこは空気を読みつつだ)
出版関係者のズブズブな仕事感覚について……
これはマジで出版業界の悪習だと思うが、編集者が原稿や取材仕事をライターに発注する際、以下のような必要情報の事前連絡を怠る人が多すぎる。
- 企画意図、その他必要な情報(企画意図が明確でないと頼まれた側のライターはマジで困る。そこは編集者の力量が試されるとこだし、その言語化・明確化と媒体特性の把握にとにかく注力しようぜ、と言いたい。それができない編集者は……弾けて混ざれ!)
- 原稿文字数
- 原稿料がいくらか
- スケジュール感
- 原稿料の支払いがいつになるかの目処(「◯月末までに支払います」等のアバウトでもいいから目処となる情報)
これは一般社会的にはありえないことだと思うが、出版業界の人はこのへんをヌルっとやろうとする。そういった「非常識」なことが慣習としてまかりとおってしまっており、みながそれに流されている。一度立ち止まって「本当にこれでよかったのか?」と自らに問うてみてもいいのではないだろうか。
タテではなくヨコの関係で仕事をしたい
これまた意地悪な見方かもしれないが、編集>ライターという力関係を暗に想定しているからそういうことになるのではと思う。編集者は、ライターに対して「うちの媒体で書かせてやっている」という上から目線の、「やりがい搾取」の姿勢になっていないか。(まあライターに力がないだけなので力をつけてから言えというのはそれはそのとおりなのだが、個人的にはそのような非対称な関係で仕事を進めるのがいいかどうかはけっこう疑問)
※関係ないけど、書き手の人がSNS上などで自分の記事を告知するとき、「◯◯(媒体名)に寄稿させていただきました」って言葉遣いをするのがマジで気になる。「させていただく」ってのはここでは単なる丁寧な言葉づかいとして使用されているだけだと思うんだが、それでも「媒体に自分の文章を載せていただく」っていう上下関係(上=媒体、下=書き手)を連想させるワーディングになってる。本来そこの関係はイーブンかもしくは「書き手のほうが偉い」という感覚(現実の力関係はそうでなかったとしても)を作ってあげるのだって編集の仕事だし、一般読者に上下的な権力関係(フーコー的な意味で)を晒すのもまずいと思っている。要は、単に「寄稿しました」と書ける世の中が個人的にはいいと思う。
外部の人と組んでいい仕事をするためには、仕事相手をリスペクトする(上下関係ではなくヨコの関係で尊重するという意)というマインドが必要不可欠だと僕は思っている。で、自分的に「お金に関する連絡は、クオリティ管理以前にもっとも重要なもの」だとも思う。僕が編集側のときは上記の点についてはきちんと事前に連絡していた(もしくは「公開日の翌月末までに振込みっすよ」といったガイドラインの事前連絡によって仕組み化していた)し、細かなアフターケアもしっかりやっていた。それがライターとの信頼関係を作ることだと思う。
出版業界にありがちな「条件提示や具体的な連絡をちゃんとせずヌルっと進めようとする」というやり方は一般社会の感覚からすれば明らかに変で、相撲協会みたいなものだと思う。そこをちゃんと一人ひとりが考え直して行動に移さないと、「出版業界で仕事をしたい」という人はますます少なくなってしまう。「一人が商習慣に抗ったって仕方ない」と思われるかもしれないが、少なくとも僕はそのやり方でやってきたしこれからも機会があればそうするつもりだ。
おわりに
いろいろ書いてしまったが、要はいい仕事をしたいだけだ。で、「いい仕事」には大人としてお金周りのことをキッチリするってことも含まれるし、むしろ僕はそれを最重要視したいとさえ思う。
今後はちょっと別の業界で、コンテンツマーケティングだとかもかなり考えないといけなくて、エンジニアや営業担当の人たちとの協業の機会が多くなるっぽい。ざっくり言えば「ITを活用しつつ良いコンテンツを作る」という仕事である。別に出版業界に将来性を感じないからというよりもむしろ、これまでに見聞したことを活かして「よりよくする」という仕事をやりたいと思っている。今回書いたようなことはできたら仕組みに落とし込んで、みんながいい仕事ができてお金も稼げてユーザー(読者)も良いコンテンツが読めてコミュニケーションや体験が生まれてハッピー、という環境を作っていきたいと思っています。(とりあえずおわり)
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