能登町「春蘭の里」にボランティアに行って感じた、物流・電気・水道・ガス・断熱の問題について

雑記

前回NPO法人ZESDAの皆さんとともに行った、石川県鳳珠郡能登町「春蘭の里」での被災地支援ボランティアについてレポートした。今回は、ボランティア作業以外の部分で感じたこと、考えたことを書いてみます。

「山間部の住民はコンパクトシティに住むべき」?

今回の能登半島地震では、山間部に支援が届きにくいことが問題となり、SNS上では政治家や評論家も含めて「行きにくい場所に住むとインフラ整備が大変で復興には公的資金もかかるので、できるだけ都市部に集住すべき(=コンパクトシティ論)」という意見が改めて注目された。しかし僕が能登町の人たちといろいろ話したところわかったのは、こういう動きは否が応でも進んでしまっているということだ。

以下は、今回食事でお世話になった方に、輪島で倒壊した家の写真を見せてもらいながら話をしたときの動画。

住民の方々に話を聞くと、能登町の住民は金沢市内に避難(というか、ほぼ引っ越し)してしまうケースも多いとのことだ。潰れたり壊れた家の再建には時間もお金もかかるし、補助金がどれぐらい貰えるかも不透明だという。印象に残ったのは、この方が「将来の計画が立たなくてねぇ……」と言っていたことだ。娘さんと一緒に住んだりなどを考えているらしく、実際そうしている人も多いのだが、じゃあどういうふうに生活プランを立てていくのかという問題にも取り組まなければならず、やること・考えることが本当に多いらしい。

もうひとつ印象に残ったのは、土地にも家屋にも愛着があり、離れるのがつらい、ということだった。論理的に考えればコンパクトシティに住めるなら住んだほうがいいのかもしれないが、愛着の問題は容易に決着できるものではない。自分は都市部の住民ではあるが、「その方が合理的なのでコンパクトシティに住むべき」という意見をわざわざ表明するのは道義的に難しいと感じた。災害と山間部の問題について、社会的コンセンサスがそこまで積み重なっていないことのほうが問題かもしれない。

石垣が大きく崩れてしまっている場所もある。

隆起によって多くの道路がガタガタ道になっている

今回、能登半島は最大4m隆起するなど地形が大きく変わり、多くの場所で道路が裂けてしまったりして、支援物資を届けることが困難だったことが問題になった。3月時点での道路はかなり直っていて、通行はできるのだが、それでもガタガタ道が多かった。どういうことかというと、下の絵のようなことになっていたのだ。

特に、川にかかる橋の部分だけが隆起(ないし橋以外の部分が陥没?)して、こうなっていることが多かった。理由はよくわからないが……。

また、他にも道路の様子をいくつか動画に撮ったので、まとめて置いておきたい。

珠洲市付近も通った。アスファルトが完全に剥がされていたり、幹線道路も大きく地割れがしている。

上記の絵で緑色で示したような対応は、おそらく応急処置なのだろう。ああいったガタガタがあると運転していてもなかなか危ない。登りの手前で減速しなければならないので、スピーディーな移動はしにくい。もとのように起伏の少ない道にするにはこれから何年もかかるだろうし、もしかしたら自治体に予算がなく応急処置だけで終わる可能性もある。

今の物流の多くは道路とクルマに頼っている。しかし地面が割れて完全な段差になってしまうと、クルマは通ることができない。その点、人間というモビリティは案外優秀だなと思った。多少の段差なら踏み越えられるし、大きな段差でもよじ登ることができる。あと、も意外といけるのではないかと感じた。馬は段差に自分で気をつけることができる。まあ実際には災害の際の支援物資の送付にはドローン活用が進んでいくのだろう。そして本質的には、大規模物流システムに依存しすぎずに生活を成り立たせていくことが重要なのだと思う。

電気・水道・ガスの問題

災害に強くなるために食料の場合は地産地消が理想だが、一朝一夕にはいかなさそうだ。だが、電気・ガス・水道はある程度やりようがある。能登町の場合、ガスはプロパンガスが多いのである程度持ちこたえることができ、水道は100年近く前から、湧き水と貯水槽を用いた給水システムがあるのだそうだ。

さらに電気については、太陽光発電を用いて水素を作り、その水素をタンクに貯めておいて発電するシステムを、行政の支援のもと導入しているという(「ゼロカーボンビレッジ実証事業」という名前がついているらしい)。

こちらが太陽光発電用のソーラーパネル。
これは水素を貯めておくタンクだ。

「そもそも太陽光発電をしているのだったら、そのまま家庭の電気に使えばいいのでは?」と思われるかもしれないが、太陽光、水力、風力などの自然エネルギーは安定的な供給が難しい。太陽光なら、発電量が天気や時間帯にかなり左右されてしまい、晴れの日の昼間は電力が余り、雨の日や夜は電力が足りないといった問題が起きる。

さらに大きな問題として、蓄電の問題がある。いくら気象条件のいい日にたくさん発電できていても、蓄電が難しいのだ。私たちの身の回りにあるPCやスマホなどは、使う電気が少ないから蓄電池も大きなものが必要ないだけである(なお、このあたりの問題は宇佐美典也『電力危機』に詳しい)。

宇佐美典也『電力危機 私たちはいつまで高い電気代を払い続けるのか?』星海社 e-SHINSHO、2023年。宇佐美氏はAbema Primeでの振る舞いは個人的に疑問だが、この本はかなりの良書である。

大量の電力の保存のためには、たとえば「揚水発電」という技術があるが、これは電力ロス(蓄電のための作業によって電力が失われる割合)が大きい。また蓄電池に関しても、よく使われるリチウムイオン電池は生産のために大量のCO2を排出するなど別の問題があり、そもそも高価である。

一方、太陽光発電して水素を作って貯めておくシステムは、晴れの日の昼間に余った電力を水素に変換して保存しておき、夜間は燃料電池(水素と酸素を反応させて発電する装置)で発電するわけである。排出するのは水(H2O)だけ。この手法は期待が大きい。

もっとも、このシステムは去年2023年11月に導入されたばかりで、1月1日の地震の際は「危ないから」という理由で県から操業が止められてしまったらしい。こういう非常時にこそどれだけ役立つかを実証してほしかったと思う。

ちなみに調べていたら給湯器に関しても、ノーリツやリンナイなどのメーカーが、2022年から2023年にかけて水素を燃焼に使う製品を開発・発表している。
水素100%燃焼の家庭用給湯器を開発 2025年以降の実用化を見据え、 現行の家庭用給湯器の最大能力24号※1に対応 | ニュースリリース | ノーリツ
家庭用給湯器において世界で初めて水素100%燃焼の技術開発に成功 | ニュースリリース | リンナイ株式会社
さらには「水素コンロ」といって、水素による調理コンロも生まれている。元衆議院議員の福田峰之が代表、ファウンダーがLUNA SEA/X JAPANのSUGIZOという謎の会社「H2&DX」が開発している。またトヨタやリンナイも水素調理器を開発中だという。
水素調理 - H2&DX

住宅に関する問題

春蘭の里には大きく崖が崩れてしまっている箇所もある。

能登町のいろんな方とお話しするなかで、新築住宅の場合はほとんど被害がない一方、築数十年〜百年近い家もかなり多いと聞いた。泊まらせてもらった場所も古い民家で、使うことのできているいくつかのお家にも行ったが、引き戸などが力を入れたり工夫しないとうまく開かなかったりした。おそらくは地震の影響で家屋の構造に歪みが生まれてしまっているのだ。

また、3月で雪も降っていたこともあって、室内にいてもとにかく寒い……と感じた。エアコンは新しくても、そもそも窓もシングルガラスで、床・壁・天井なども断熱はおそらくされていない家が多い。そもそも里のみなさんは、断熱の重要性をあまり認識されていないようだった。冬の寒さはみなさんの健康に悪いので、何とかならないだろうか……。

こちらは珠洲市の海岸付近にあったトレーラーハウスタイプの仮設住宅。断熱や空調などもしっかりしていてなかなか便利そうだ。しかし風情はあまりないかもしれない。

ちなみに行政によるリノベの補助金は築年数や耐震基準などで区切っている場合が多い。築年数の長い春蘭の里の家々の場合、この「耐震」「断熱」の問題は大きく残り続けてしまうように思う。

思うに、日本の人は電気が好きすぎるという問題がある。日本のメーカーのエアコンはたしかに優秀なのだが、そもそも天井・床・壁・サッシなどの断熱性能を高めて、エアコンや床暖房を使うにしても暖めやすく冷やしやすい住宅に切り替えていっていいように思う。

これは春蘭の里近くにある長龍寺というお寺。能登の伝統的工法で作られている。能登は「黒瓦」といって、真っ黒のツヤツヤした瓦が特徴なのだという。白川郷や五箇山の合掌造りとはまた違う風情がある。こういう建物を、耐震や断熱に優れたリノベーションを施して残すことができるといいなぁと思うのだが。

北陸応援割からボランティア活動へ

災害は都市部住民にとっても無縁ではない。今回、被災の大変さを肌身で感じたが、自分自身はあまり備えられていないように思った。東日本大震災のときは石巻にボランティアに行ったこともあったのか、どこでも生活できるようなアウトドアグッズをかなり揃えていた。たとえば寝袋、持ち運びできる枕、テント、ガスコンロ等々……。そういったものの場所がわからないので、ちゃんと家の中や実家などから見つけてくる必要性を感じた。

今のままだと電気・ガス・水道・食料などの供給が止まったらなかなか心許ない。いきなり非常用グッズから防災食や水、発電機まで全部揃えることはできないが、少しずつやっていけたらいいと思う。あと、素朴にアウトドア生活(登山など)をときどきしておく必要性を感じる。

今回は、自分の被災地支援ボランティアを疑似体験してもらえるような記事を書いてみたが、やはり現地に行って、被災地の人たちと話し、ボランティア作業でカラダを動かして、肌身で感じるのが一番いいと思う。北陸応援割が話題だが、観光だけではなくボランティアに参加してみるのもいいのではないだろうか。

NHKのこちらのページは、さまざまな情報がまとまっているので参考にどうぞ。→石川県 ボランティアや寄付をしたい 北陸応援割を使いたいと思ったら NHKの関連記事をまとめました 能登半島地震 | NHK

(了)

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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