このあいだのファーストデーに『DUNE/デューン 砂の惑星』を観てきた。
もともと『DUNE』は60年代に出版されたフランク・ハーバートのSF小説で、SF作品のなかでは非常に評判がいい。ただ映像化不可能と言われてきて、アレハンドロ・ホドロフスキー、リドリー・スコットなどが監督して制作しようとして失敗し、その後デヴィッド・リンチが若い頃にようやく映画化に成功したが、その評判は芳しくなかった……らしい。
『ホドロフスキーのDUNE』『エイリアン』『ゲーム・オブ・スローンズ』『ファウンデーション』『スター・ウォーズ』『風の谷のナウシカ』……DUNEの関連作品について
僕が『DUNE』を知ったのは、『ホドロフスキーのDUNE』という映画を観たからだった。これはたしか宇多丸氏がラジオで紹介していて、面白そうだなと思って観たら実際に面白かった。なんというか、クリエイティブに携わる人が観たらやる気の出る映画であると思う。
そんでその後、過去のSF映画で観たことがあるものもけっこう観ていた。特に、結局完成しなかったホドロフスキー版DUNEのスタッフたちが集った『エイリアン』第1作からエイリアンシリーズを全作見返したりした。エイリアンシリーズのリブートである『プロメテウス』や『エイリアン・コヴェナント』もけっこう面白い。
あと個人的なことをいえば、ここ数年の映像作品のなかで一番ハマったのが『ゲーム・オブ・スローンズ』だった。最近ではApple TV独占で、SFの大家であるアイザック・アシモフの『ファウンデーション』が映像化されている。まだ1話だけしか観ていないが、これはけっこう面白そう……でありつつ、明らかに『ゲーム・オブ・スローンズ』の後釜を狙っている感じがして、二匹目のドジョウを追って前のめりに倒れそうな気もする。正直その予感ビンビンであるし、長いのでどうなんだろうという気もする。
あと、『DUNE』の影響を受けた作品としては、『スター・ウォーズ』シリーズ、それと日本であれば『風の谷のナウシカ』なんかもそうらしい。『スター・ウォーズ』は砂の惑星や「フォース」、『風の谷のナウシカ』はナウシカたちのスーツやオームのデザイン、終末論的な世界観などは『DUNE』から影響を受けているのだろう。
今回の『DUNE/デューン 砂の惑星』
俺たちの(?)ティモシー・シャラメ主演ということで楽しみにしていたがこのあいだやっと観に行けた。平日月曜昼のIMAXシアターだったがお客さんはかなり入っていた。原作を読んだこともなければ、雑誌などでの事前知識もろくに入れていなかったが面白かった。「けっこう長いな〜」と思ったら155分もあるらしい。でも退屈ではなく、むしろ1800円しかかかっていないのでお得感があった。
監督はドゥニ・ヴィルヌーヴだが、前々作の『メッセージ』(2016年)、『ブレードランナー2049』(2017年)は両方ともすごく面白かった。いわゆるオタク男子的なゴツゴツしたSFビジュアルでもないうえに、映像が少し現代アートっぽいつくりになっている。『メッセージ』はなかなか難解な作品だが、それもむしろよかった。『ブレードランナー2049』は、もちろん『ブレードランナー』の続編的位置づけだが、SF的な新しいアイディアも多い。特に「初音ミクと都会で暮らす独身男性の孤独」みたいなモチーフは、なかなかアイロニーが効いてて面白かった。最近の空気読みすぎ系名作リブートと違って、前作への尊重とともに、今っぽい新鮮さが感じられた。
で、今回の『DUNE/デューン 砂の惑星』は、やっぱり『ゲーム・オブ・スローンズ』や『ファウンデーション』あたりの大河ドラマSFと共振するところがある。もはや一発ネタではなく「大河ドラマ」しかないということなのだろうか。
あと、素朴に『スター・ウォーズ』の元ネタなので、「ああ、スター・ウォーズはこのへんでDUNEに影響されてるのか〜」というのもわかるのが楽しい。で、思ったのは、影響源である作品は、それをうまくポピュラーにした後続作よりもちょっとしたしょぼさを感じることが少なくないが、『スター・ウォーズ』と『DUNE』なら、『DUNE』のほうがテーマ性とかはより深みがある、ということだった。
『スター・ウォーズ』は、もちろん『DUNE』の影響もあるけれど、黒澤とかの影響も大きい。だから日本人からはけっこうキャッチーに見えるとは思うが、そのぶん『DUNE』の影響は薄まっている感じがある。実は、ジョージ・ルーカスの「禅」の理解はけっこう雑ではないかと思うところがある。京都の南禅寺に観光に来て「ZEN」グッズを買っていく欧米人のイメージというか……。
『DUNE』はどちらかというと「砂漠の民」というか、アラブっぽい、オリエントっぽい感じがある。で、人類学的なエッセンスが、これまでのハリウッド作品よりもちゃんと入っているのがいいなと思った。
絵作りの面では、これまでのドゥニ・ヴィルヌーヴ作品の良さがちゃんと引き継がれているように思った。あとノーラン作品でよく知られるハンス・ジマーの音楽もハマっている。「ドーン」「ズーン」みたいなアレである。
批評性ということでいえば、「モンスターバース」各作品のような、単なるオタクの作ったファンムービーでもなく、かといってスター・ウォーズの続三部作(いわゆるシークエル)の『スカイウォーカーの夜明け』のようにオールドファンの空気を読みまくって単なる八方美人に成り下がったマーケティングの成果物にもなっていない。
ちなみに『スター・ウォーズ』の続三部作の顛末に関してはこの記事がけっこう面白い。→「ファン目線」がもたらした「スター・ウォーズ」の終焉、「ファンへの理解」の正体
現在はいわゆるマーケティング的な感性から、いかにして距離を取るかがやっぱり課題なのかなと思う。モンスターバースもスター・ウォーズのシークエルも、結局はマーケティングに取り込まれてダメになった。マーケティングというのはWebメディアで言えばGoogleアナリティクスの数値を見てそこに最適化していくということで、現代のマーケターはロボットが実行まではできないのでそこを代行しているだけの存在である、おそらく今後は実行部分も、AIに代替されていくだろう。だから(そういう意味での)マーケティングというのは、別に人間がやらなくていいと思うのだ。
今回の『DUNE/デューン 砂の惑星』は過度なマーケティング重視の潮流から一定程度、距離をとっていて、かつ北米での興行収入が好調でパート2も制作されるそうである。結局そういうことなのかなとは思う。『ファウンデーション』は嫌な予感はちょっとあるけれども、実際どうなんだろう、見るかなぁ。Apple TVに課金しなければいけない……。とはいえ最近はSFが盛り上がっている感じはあるので、疲れない程度に見ていきたいかなぁとは思う。
(了)
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