映画『ラストエンペラー』と、東アジア的な感覚

映画

いまやっていることの(かなり迂遠な)資料として、映画『ラストエンペラー』を観た。

『ラストエンペラー』は、Amazon PrimeにもNetflixにもなく、U-NEXTにあったので入会してしまった。使ってみてわかったが、U-NEXTはアマプラ・ネトフリにないものを補完しているのでけっこういい。『君の名前で僕を呼んで』とかもあったので、後で観るかもしれない。

『ラストエンペラー』

『ラストエンペラー』は清朝最後の皇帝で、その後に満州国皇帝となった愛新覚羅溥儀の生涯を描いたものだ。1987年に公開され、アカデミー作品賞を受賞していて、監督はイタリア人のベルナルド・ベルトルッチである。坂本龍一が甘粕正彦役で出演しつつ音楽を担当したことも有名だ。

実際に観てみると、本物の紫禁城を使用して撮影された映像美は非常に見事だった。溥儀は1906年生まれで、1967年に死去しているので、20世紀前半〜半ばの近代史ともかなり重なっている。そのあたりの時代感覚も勉強になる。

2人の妻、婉容と文繡との関係も面白い。西欧的な恋愛観では出てこない描写だなと思った。

映画を貫くテーマは「孤独」なのかなと思った。溥儀の友人といえるのは英国人家庭教師のジョンストンぐらいのものだったろう。日本の昭和天皇も孤独ではあったとは思うが、昭和天皇関連の書籍や映画などを見ると、少なくとも溥儀に比べれば側近にはかなり恵まれていたように思う。清朝にはいわゆる変法自強運動の康有為・梁啓超などがいたはずだが、溥儀とはかなり距離が遠かったのだろうか。

人物とかその他もろもろ

川島芳子が出てくるのも面白い。川島芳子は戦前、かなりの有名人であったというが、スパイが有名人とはどういうことなんだろう、と思う。甘粕正彦、李香蘭(山口淑子)などの満洲国を彩った人脈はけっこう気になる。劇団四季の「ミュージカル李香蘭」も観てみたいな〜と思ってしまった。そもそもミュージカルや演劇も、もっと観に行きたい。

『ラストエンペラー』で気になったのは、坂本龍一演じる甘粕正彦である。Wikipediaなどによると「そんなにイヤなやつだったのか?」とも思う一方、甘粕事件の首謀者で殺人者でもあるのに、その後に満州で活躍できるというのはどういうことなんだろう。まあそれは史実だからいいとして、劇中でのエクストリームな国粋主義者ぶりはなんだろう? と思う。満洲国経営といえば、岸信介などの現実派が仕切っていたイメージがあるので、そのなかで甘粕はこんなエクストリームなやつだったのか? というのはちょっと疑問に思った。そこは史実を詳しく知らないのだが、辻政信と同様に、甘粕正彦という人物もなかなか評価が難しいのだろうなと推測する。

東アジアのことを知りたい

ところで、永田町の駅からちょっと入ったところに「李王家邸」というものがある。これは要するに李氏朝鮮の王家が、日韓併合後に華族に準じる扱いを受けて日本で暮らしており、それでその跡地として残っているのだ。

溥儀の弟・溥傑の娘、1957年の「天城山心中」で知られる愛新覚羅慧生は日本で育っており、妹の福永嫮生は現代も日本で暮らしているという。

このあたりの話は、なんとなく心の赴くままに調べていて知ったことであるが、韓国や中国の旧王家が日本にいたりするというのは一体どういうことなんだろう、とは思う。

また、年配の日本人は、李王家や愛新覚羅家への関心も高かったりする。

たとえば溥傑の妻・愛新覚羅浩(この人はもともと日本人である)が1959年に出版した『流転の王妃』は当時ベストセラーになり、2003年にはテレビ朝日で、竹野内豊・常盤貴子主演でドラマ化(タイトルは『流転の王妃 最後の皇弟』)されている。

他にも、浅田次郎が『蒼穹の昴』という近代中国をテーマにした小説を書いていて、これも2009年にドラマ化されてちょっと見た覚えがある。その後も、浅田次郎は『蒼穹の昴』シリーズをずっと執筆している。これも読みたいなぁと昔からちょっと思っているのだが、果たしていつ読めるのだろうか……。

いずれにしても、戦前の社会史・国際関係史に僕が見ている面白さは、たしかに日本の植民地主義・帝国主義などのデリケートな問題はありつつ、戦後すっかり国境が固定化した今とは違って、中国や韓国に対する日本人の思い・感覚は、もうちょっと輪郭がぼんやりしたものだったんだろうな、というところにある。東アジア的な感覚、と言ったらいいだろうか。今の感覚だけでは、どうしても発想が限定されてしまう。「昔の人はこんな感覚だったんだ」ということを知ると、新たな発想やアイデアが浮かんでくるかもしれない――それがちょっと面白そうだな、と思うのである。

(了)

中野 慧 (Kei Nakano)

1986年生、ライター・編集者・ディレクター。PLANETSにてWebマガジン編集、株式会社LIGで広報/メディア事業を経験したのち現在フリーランス。過去に構成・編集を担当した書籍に『「絶望の時代」の希望の恋愛学』(宮台真司編著、KADOKAWA/中経出版)、『ナショナリズムの現在』(小林よしのり他著、朝日新書)、『現役官僚の滞英日記』(橘宏樹著、PLANETS)、『若い読者のためのサブカルチャー論講義録』(宇野常寛著、朝日新聞出版)など。現在は、PLANETSにて月イチで「文化系のための野球入門」を連載中。
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