文字起こしの後/構成の前の重要な工程、「整文」のやり方について

ライティング・編集

前回は「文字起こしのやり方」について書いたので、今回は実際に記事に掲載する文章を執筆していく作業=構成について書こう……と思ったのですが、その前にやらなければいけない「整文」という工程について書いていきます。

注意点として、ここで書いていくことはあくまでも「時間はかかるけれども、誰にでもできるやり方」です。基礎が押さえられている人、すでに経験のある人は飛ばしてもいいですが、逆に初心者はきっちりこの工程を踏んでいくのがよいです。この工程を最初から飛ばしてしまうと、途中でだんだん自分が向かっている方向性がわからなくなり、原稿を完成させられないままいたずらに時間が経過してしまい、あとで考えたらものすごい時間がかかっていた、ということにもなってしまいます。そうならないためにも整文はしっかりやっておきましょう。

文字起こしを「整文」する

文字起こしは、「素起こし」→「ケバ取り」→「整文」という工程があります。ケバ取りに関しては、文字起こしの記事で説明したので飛ばして、その次に必要なのが「整文」です。整文は、構成に入っていく前のベース作りという側面があるので、実はかなり重要な工程です。

整文の定義はさまざまですが、僕の定義は

「何度も読み返したくなる文字起こしをつくる」

というものです。

「読みやすい文字起こし」を何度も読み直し、内容をしっかり理解する

なぜ、「何度も読み返したくなる文字起こしをつくる」ことが必要なのでしょうか。

すでに述べたとおり、実際の原稿執筆は「構成」という作業になるわけですが、取材した内容をあまりよく理解しないまま手を動かしはじめてしまうと、結局、膨大な時間がかかってしまいます。

そうならないために、僕が提案したいのが、いきなり書き始めずに、「文字起こしを何度もよく読む」ことです。文字起こしを何度もよく読み、取材内容の全容を把握し、「結局、この記事で読者に何を伝えたいのか」をつかんでから書き始めたほうが、結局は時短になります。ゴールをあらかじめ明確にしたほうがいい、ということですね。

これは言い換えれば、構成には読解力が必要、ということでもあります。焦って「書く」前に、まず「読む」をしっかりやることが、良い構成をおこなうためにとても大事です。そのためにも「自分が読んでいて楽しい文字起こしにする」ぐらいの意識がよいでしょう。これは、何度も読むことが苦痛でなくなるようにするためです。

実際にやること

実際の取材ではさまざまな文脈が織り込まれつつ、インタビュアー/インタビュイーともに自明のことは省略されがちです。そういった過不足を補いつつ、読みやすいテキストにしていきます。

ニュアンス表現を入れる、改行を入れる

文字起こしの記事で、「ケバ取りをしよう」「ニュアンス表現を入れよう」「適宜、改行を入れよう」ということを書きました。文字起こしでその工程を踏んでいないのであれば、まず上記の工程をやります。

読みやすい表現に直していく(実例付き)

他に、僕が整文をするときにやることは、読みやすい表現に直していく、ということです。

  • 倒置表現を直す(主語→述語の順番に直す)
  • 取材時は自明すぎて省略されている言葉(主語、述語、指示語、事実関係等)を補う
  • 話し言葉を書き言葉に直す(ら抜き言葉、い抜き言葉を直す)
  • 文字校正をする
  • 固有名詞を正確にする(※もう一個あとの節で詳しく説明します)

などです。

実際にやってみたものが下記です。

(文字起こし)
江夏と落合の二人がそういう、野茂とかイチローとかが出てくる素地を作ったみたいに言えるな、とは思いますね。あとは面白くないですね、そんなに。長島さんとかもちろん面白いんだけど、なんか認められすぎてる、世界から(笑)。江夏とか捕まってるし(笑)、落合とかも毀誉褒貶のある人だし。そういうふうに考えれるなと。

(整文したもの ※編集履歴つけてみたバージョン)
江夏と落合博満の二人がそういう、野茂英雄とかイチローとかが出てくる素地を作ったみたいにとは言えるな、思います。あとはそんなに面白くないですね。長茂雄さんとかも、もちろん面白いんだけど、なんか世界から認められすぎて、世界から(笑)。江夏とか覚醒剤で捕まってるし(笑)、落合とかも毀誉褒貶のある人だし。そういうふうに考えれるなと。

(整文したもの ※完成版)
江夏豊と落合博満の二人が、野茂英雄やイチローが出てくる素地を作った、とは言えると思います。あとは、そんなに面白くないですね。長嶋茂雄さんとかも、もちろん面白いんだけど、なんか世界から認められすぎている(笑)。江夏は覚醒剤で捕まっているし(笑)、落合も毀誉褒貶のある人だし。そういうふうに考えられるなと。

こんな感じで文章を整えていきましょう。

ファクトチェック(固有名詞・事実関係)

固有名詞や事実関係などは、整文の段階で、すべてしっかりとチェックします。

「人名はその表記で正しいか?」
「その出来事は本当に◯年に起こったのか?」
「この話に根拠はあるか?」

などなど、気をつけるべきことはたくさんあります。特に取材対象者の人名を間違えて表記してしまうと、取材先に原稿チェックに出す際にいい印象を持たれないので注意が必要です。

この際はしっかりネットを活用しましょう。固有名詞などはググって、公式サイトの表記を確認し、できるかぎりそのままコピペして持ってきます。事実関係なども、「1994年3月に起こった地下鉄サリン事件」などという話が出てきたら、「地下鉄サリン事件」でググり、年代をチェックします(ちなみに地下鉄サリン事件が起こったのは1995年3月です)。

小見出しを立てる

さらに読みやすくするためには、「小見出しを立てる」ということが必要です。小見出しを立てるというのは、トピックごとに話題を整理して節として分割する、ということです。実はこの記事も、小見出しがついていて、話題ごとにテキストがブロッキングされていますね。なお小見出しに書くテキストは、この段階ではわかればなんでもOKです。これをやっておくと読み直しがしやすくなります。

ひとつ例を挙げると、ログミーというメディアがあります。ここは「書き起こしメディア」と謳っていて、さまざまなイベントやセミナーを書き起こして記事にしています。実はログミーは、書き起こしといってもいわゆる「素起こし」を載せているわけではなく、整文したものを載せているのです。

ログミーに掲載されているテキストは必ずしも、マスメディアぐらいのレベルまで編集された文章ではありませんが(これを言ってもログミー代表の川原崎さんは怒らないと信じます)、そうであってもログミーは十分に読みやすいものになっています。

したがって「読みやすい文字起こし」というもののイメージとして、「ログミーぐらいのものにする」ということを、ひとつの目標にするのがよいと思います。ログミーの記事を実際に読んでみて、イメージをつかんでみてください。

【やや余談】「自分が読んでて楽しい文字起こし」ができたら、それをそのまま記事にしちゃえばいいじゃない。

実は、「自分が読んでて楽しい文字起こし」ができたら、それをそのまま記事にしちゃってもいいのです。無理に要約したりするよりも、そちらのほうが文字起こしのニュアンスがよく再現されている(ちなみに繰り返しになりますが、変に要約すると本当に面白くない文章になってしまいます)ので、それをそのまま載せちゃうというわけですね。

問題は文字数がかさむことですが、Webメディアや編集担当者が「5000字以内で」といった文字数のレギュレーションをかけているのは、基本的には、スペースに限りのある紙媒体のやり方をよく考えずに引き継いでいるだけです。Webはスペースが無限なので、そこに縛られる必要は必ずしもありません(※)。

もっとも、「この取材は内容が薄いから3000字にまとめよう」という判断は当然ありえます。薄い内容ならコンパクトにまとまっていたほうが仕事としての仕上がりはよいと思います。そういうときは、薄い内容しか取材できなかった原因を考えましょう。単純に準備の「量」が足りなかったのか、聞き手の侵入角度の問題なのか……等々。

※ただし、紙媒体で「文字数制限に収まるように書く」というのは、とてもいい訓練になるのもまた事実です。

現に、皆さんもご存じ(のはず)の「電ファミニコゲーマー」の大ヒット企画、さまざまな偉人ゲームクリエイターや周辺業界人にインタビューしていく「ゲームの企画書」というシリーズは超長文が多く、2万字とかは平気で超えてきますが、それでもめちゃんこバズっています。

電ファミニコゲーマーの大ヒット企画「ゲームの企画書」。

Webメディアを持っている会社の偉いヒトとかに長文記事を見せると、「こんな長い記事、読まないんじゃないの?」と言いがちですが、Webメディアに関わる仕事をしている人で「ゲームの企画書」を知らない人はモグリと断定していいと思います。

「部長! そうは言いますけど、電ファミニコゲーマーの『ゲームの企画書』というシリーズはもちろんご存知ですよね?」と聞いてみてはいかがでしょうか。……なんていうのは、半分冗談、半分本気です。

ちなみに僕がやったものでも、LIGブログで日テレの土屋敏男プロデューサーにインタビューした記事があって、これも1万5千字くらいありますが、PVも余裕で1万を超えていて、平均滞在時間もたしか8〜9分ぐらいありました。

Web記事の滞在時間は平均的に2〜3分で、4分を超える記事は読者満足度が高いとされていますので、この記事は手前味噌ながらなかなかすごい部類に入ると思います。

もちろん、「ゲームの企画書」のライティングをしている稲葉ほたてさん、それと僕もそうなのですが、「ただ単なる文字起こしを綺麗にしたもの」を上げているわけではなく、読まれるためにいろんなテクニックや演出技法を使っています。でも、そこまでしなくても、変に要約してしまうよりは「読みやすい文字起こし」をそのまま上げちゃうのもアリだと思います。

まとめ:原稿制作には「読解力」が必要

この記事では「書く」前に「読む」ことが重要である、ということを述べました。でも何度も読むためには、文字起こしが読みやすくなっている必要があります。そして次の工程である「構成」に入っていくためには「結局、この記事で読者に何を伝えたいのか」をきちんと理解しておく必要があります。言わば、ここでは「読解力」が必要になっているわけです。

整文という作業は、「よく読む」ことをしつつ、同時に「読みやすい文字起こし」を作っていく作業でもあります。そしてそこに「この記事で読者に何を伝えたいのか」を明確につかむ読解ができていれば、後の工程はぐっと楽なものになります。初心者の方はぜひこのあたりを心に置いて原稿制作をやってみていただければと思います。

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本記事の執筆者は中野ケイで、編集者・ライターやその他いろんな仕事をしています。本記事を執筆している2021年4月現在、PLANETSにて、「文化的な視点から野球を捉える」がコンセプトの連載「文化系のための野球入門」を月イチで連載中です。こちらの連載では文化論としての野球、について書いています。

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もっと無意味な記事も書いていきますので、ときどき見に来ていただければ幸いです。

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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