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国防婦人会と千人針カルチャー | にどね研究所

国防婦人会と千人針カルチャー

歴史

最近、「文化系のための野球入門」を書く上での前提知識として必要なので、戦前の社会背景に関する勉強がちょこちょこと進んでいる。もっとも、連載で使えそうな記述はそっちに回すので、このブログで書いているのは「さすがにこのトピックは関係なさすぎるな」という、補遺みたいなものをリサーチノート的に載せています(なので、必ずしもすごく整理されて一本筋の通ったものではないことはご容赦ください)。

国防婦人会というのは戦前の女性団体で、なんと当時の加入者1000万人。

これは太平洋戦争というよりも日中戦争の時期に重要な役割を果たした。Wikipediaには

割烹着と会の名を墨書した白タスキを会服として活動。出征兵士の見送りや慰問袋の作成など、銃後活動を行った。

国防婦人会 – Wikipedia

とある。朝ドラとかでもよく出てくるので、何となくそう言われればあれかと、存在を知っている人も少なくないだろう。しかし加入者1000万人とはなかなかである。

そして千人針というものもある。出征する兵士に弾除け祈願で送ったというもので、これは千羽鶴のルーツ的な文化だと思われる。そう、高校野球ではなぜか夏の大会前にマネージャーとか父母が千羽鶴を折るという謎カルチャーがあるのだ。僕としては、この謎の慣習は、戦前の出征見送り文化との関係があるのではないかと見立てていた。

国防婦人会と千人針カルチャーは対立するものだったらしい。

服飾デザイナーの森南海子によれば、千人針とは「戦地からの安全な帰還を願うものであり、出征者の戦死を祝福する当時の世相に対する、ある種のカウンター・カルチャー」だったとのことである。(リサーチ・ノート:千羽鶴・千人針 – TAKASHI ARAI STUDIOより)

ざっくり言えば国防婦人会は「お国のために立派に死んできなさい(それが私たちの権利獲得につながるから)」で、千人針カルチャーは「何としても生きて帰ってきてほしい」。

どっちも個人主義ベースといえばそうだ……。

国防婦人会のほうは秘匿された剥き出しの個人主義であり、個人的には千人針のほうが直感的には共感できるが……誰もが国家主義という同調圧力に抗う蛮勇を持てるわけではないことを思うと、やっぱり大事なのは思想を紡ぎ出すこと、そしてそれを支える言論の自由を確保しておくことだと思う。

戦争はよくない、と、僕も思う。だがそれを言うだけでは、現実に立脚した強靭な思想たりえない、とも感じる。「なぜ戦争が起きてしまったのか、なぜそうなったのか」を、歴史的に検証する批評眼を持っておく。戦争にかぎらずだが、人間が非人間的な営みに陥ってしまうということの理路を学ぶことが大事なのかなと思う。

「そんなことは言ってはいけない」と、人の発言を「非国民だ」ともいわんばかりに規制するということが今も頻繁に行われている。戦前の社会は「全体主義こそが正義だ」と、マスコミも民衆もそれを熱狂的に煽り立てた。「今はそんなことを言っている暇はない」「バスに乗り遅れるな」と、少数者の言論を封殺してきた。

もちろん誹謗中傷や根拠なき主張がよくないのは大前提だと思う。しかし、誹謗中傷でもなく、何らかの根拠を持って提起されている主張を、「そんなことは言ってはいけない」「非国民だ」と退けてしまうことの危うさは非常に大きい、と思う。

▼近代日本の文化空間と男性カルチャーを、「野球」を通じて批評的に問い直すシリーズをPLANETSで連載中です。⇒「文化系のための野球入門

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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※アイキャッチは、国立競技場手前の橋です。

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