こんにちは、フリーランスの編集・ライターをしている中野です。最近なるべくメディア離れ、スマホ離れをして仕事を頑張ろうと(特にここ数日)心がけているのですが、アニメ『推しの子』だけ楽しみに観ています。さすがの動画工房さんということで色彩設計が素晴らしいですよね。
それはさておき、この6月に僕が編集を担当した書籍『新版プロデューサーシップのすすめ』が発売になりました。これは2021年夏に出した『プロデューサーシップのすすめ(以下、旧版)』を底本に、今回フル・アップデートの上で『新版』として紙書籍版・電子版を同時発売したものです。
この記事では、旧版からどのようなアップデートがあったのかを編集者視点で書きます。
①カバーデザインをよりわかりやすく、前向きなイメージに
カバーデザインは森一機さんにやってもらいました。版元は竹本智志さんのマイクロベンチャー出版社、紫洲書院(しずしょいん)、著者は研究・イノベーション学会 プロデュース研究分科会(PSRI)とNPO法人ZESDAです。
旧版のカバーは紫洲書院の竹本さんが自身のブログで書いているとおり、以下のような弱点がありました。
2021年に発売した旧版『プロデューサーシップのすすめ』は、よく言えば「渋い」カバーデザイン(筆者がデザインしました)により、残念な売れゆきが続いていました。また内容そのものは良いものの、初期の編集ポリシーにより専門的なテイストでまとめてしまったのも、セールスという点ではイマイチな結果に。これらの要因が重なったことで、売り込むにもなかなか難しく、カバーが地味&パッと見が難しそう、という理由により書店に置いてすらもらえない事態に…。著者・関係者のみなさまの熱量も高かっただけに、なんとか売れるようにしなければなりません。
【新刊発売】宇宙開発からアイドルプロデュースまで──令和のリーダーは「プロデューサーシップ」を学ぼう! – 紫洲書院 より
そんなわけで今回の新版へのアップデートにあたり、「メインターゲットはどんな人か」「その人が手に取りたくなるか」「さらに広く一般に、内容に興味を喚起させられるか」といったプロダクトデザイン的な観点で森さんにデザインし直していただきました。結果として、書籍の内容を適切に伝えられるカバーになったのではないかと思います。
②内容面では「とにかく読みやすいビジネス書」へ近づけました
旧版『プロデューサーシップのすすめ』は、研究・イノベーション学会プロデュース研究分科会とNPO法人ZESDAが共催したセミナーが元になっています。しかし完全に学術的な内容というわけではなく、どちらかといえば「仕事で悩みを抱えているビジネスパーソンが、どういうふうに自身の仕事のやり方を改善していけばよいか」というテーマの話題がメインになっています。そこで今回の『新版』ではビジネス書に振り切ることにしました。
まずは2023年6月に発売する書籍としてふさわしいものにするため、20名に及ぶ著者のみなさんとやりとりをしながら、ビジネスパーソン向けに原稿をフルリニューアルしました。
また、この本は紙書籍で418ページと比較的分厚めの本になります。そこで、読者がパラパラとめくるだけでも内容を大づかみに理解できるように、知ってほしい、考えてほしい部分の太字表示をより繊細に考えて決めました。「時間のない方でも、太字だけバーっと眺めてみるだけでも内容が頭に入ってくる」というものをめざしました。
さらに誌面デザインに関しても、旧版では横書きレイアウトだったものを、新版ではビジネス書で一般的な縦書きレイアウトに改めました。他にも「産学連携」「サプライチェーン」「IoT」などのやや専門的な用語を、予備知識のない読者にも理解してもらえるよう、できるかぎり噛み砕いて説明しています。
③ぜひ、新録原稿に注目してみてください!
今回は、旧版から内容を完全に入れ替え、新規採録した原稿が3つあります。
1つ目は、本書のイントロダクションにあたる「はじめに――ビジネスに活きるマインドと技術、「プロデューサーシップ」とは」です。こちらは電気通信大学客員教授・内閣府地域活性化伝道師の久野美和子先生、東北大学名誉教授で研究イノベーション学会前会長の原山優子先生、このお二人の連名による書き下ろしです。
ここでは、すでにある種の「意識高い(あるいはwokeな)」系用語として消費されてしまっている感のある「イノベーション」という言葉を、私たちの生活実感により近づけ、自分ごととして感じられるように解説していただきました。本書のコンセプトを端的に表現した、平易でありつつ熱いソウルが込もった文章になっていると思います。Amazon販売ページで冒頭が読めるので、ぜひこの部分だけでも読んでいただければ幸いです。
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2つ目は、ジェトロの西川壮太郎さんによる「21世紀の主戦場・アフリカに種を蒔く――ケニアで働くジェトロマンのプロデュース術」です。西川さんはジェトロ・ナイロビ事務所長を務めた人物で、21世紀後半には確実に身近になってくるであろうアフリカ市場について解説していただきました。アフリカ大陸のなかでもケニアは屈指のIT・スタートアップ先進国で、フィンテックも普及しています。テクノロジーが社会を変えていくテストケースとして、ケニアはなかなか面白い場所のようです。
3つ目は、東京和僑会元事務局長の永野剛さんによる「プロデュースの技術は「華僑」に学べ!? 組織より「個」でつながるコミュニケーション術」です。昼は一般企業の営業マン、夜は(実際には夜だけじゃないと思いますが)日本と他の東アジア・東南アジア諸国を結ぶ越境ビジネスのプロデューサーという、まるで特命係長・只野仁のような永野さん。その永野さんが「人と人をつなぐ」と生業とするに至ったきっかけは、「中国」「華僑」との出会いだったのだそう。華僑に学ぶ営業術、コミュニケーション術がテーマの原稿になっています。
その他の章も、旧版に比べてもっとビジネスパーソンの方々に親しみやすく、理解しやすくなるように大幅に加筆・修正を行っています。
④電子版が気合い入ってます!
『新版プロデューサーシップのすすめ』は、旧版(2,420円)から価格を440円下げて紙書籍版は1,980円、さらに同時発売となった電子版は1,250円で、しかもKindle Unlimited会員であれば無料で読むことができます。「プロデューサーシップ」という概念を普及させることが、日本社会をより活力ある場に変えていくことにつながる――。そのきっかけづくりとして、より手に取りやすい価格・販売形式にしました。
今回初めて出す電子版では、他の出版社とは少し違う取り組みをしています。フルスタッククリエイターである竹本さんの尽力で縦書き、リフローレイアウト(スマートフォンでもタブレットでも画面の大きさに合わせて読める)になっているのはもちろんですが、大きな特徴は多くの写真や画像をカラーにしたことです。
一般の紙書籍が白黒なのは、カラー印刷をすると印刷費が多くかかってしまうからで、しかも多くの出版社は電子化の際に写真をカラー復元まではしないものです(※)。
一方、『新版プロデューサーシップ』電子版の場合は、少し手間をかけて写真をカラー復元しました。また、文中にリンクがある場合はすべてリンクをアクティブにしています。電子書籍の場合は、多くの人がタブレットやスマートフォンなどで読むためカラー表示が可能で、リンクもすぐに飛ぶことができます。こうした電子書籍にもともと備わっている特性/利便性を、本書電子版では最大限活用することにしました。
※ただし、固定レイアウトの電子書籍(マンガや雑誌、写真集や図版集など)であればカラーはけっこうあります。この『新版プロデューサーシップのすすめ』のようなリフロー+カラーレイアウトは、技術的にはそれほど難しくないのですが、やる出版社はあまりないので、今回やってみました。かつて僕がインディペンデントで出版して5000部以上(のちにKADOKAWAから『「絶望の時代」の希望の恋愛学』として書籍化され約2万部)のスマッシュヒットとなった電子書籍『宮台真司・愛のキャラバン――恋愛砂漠を生き延びるための、たったひとつの方法』と同じ手法を、久しぶりに採用してみました。
⑤編集後記も書きました
最後に、僕と竹本さんによる「編集後記」も載せてみました。一般のビジネス書で、編集者自身が署名で文章を書くことは非常に少ないものです。ただ本書の場合「プロデューサーシップ」を扱った本であり、「アントレプレナー(本の場合は著者)だけでなく、プロデューサーの存在が重要」ということが大きなメッセージになっています。そのため、この本のプロデューサーである編集者がどんなことを考えてこの本をプロデュースしたのかを読者にきちんと届ける必然性がある、と考えました。
もうひとつ、かつての雑誌では編集後記が巻末に小さく載っていたりして、僕はそれを読むのも楽しみでした。
『新版プロデューサーシップのすすめ』は著者が20人もいて、ほとんど雑誌に近いつくりです。そういう雑誌的なごった煮感であったり、チームを組んで作ったことをかたちにして伝えたい、という思いもあります。
いま、世の中に本当に必要な本として
今回の『新版』では、ZESDA理事長の桜庭さん、紫洲書院の竹本さん、「はじめに」を書いてくださった久野先生・原山先生、新版から加わっていただいたデザイナーの森さん、そして多くの著者のみなさんのチームワークもあって、なんとか納得いくかたちに仕上げることができました。ありがとうございました。
旧版の方の『プロデューサーシップのすすめ』の売れ行きは華々しいものではありませんでしたが、「プロデューサーシップ」という考え方には、日本社会をよりよい方向に導いていくポテンシャルがあると思います。
本書のもつ可能性は、評論家で(僕が数年前まで働いていた)PLANETSの編集長である宇野常寛さんが寄せてくれたオビ推薦文で、端的に表現されています。
『コトを成すために必要だけど、世間に不足してるもの。
プロデューサーシップという概念が夢をかたちに近づける。』
世の中に今はあまりないけども潜在的に必要な本として、納得のいくプロダクトは作れたと思います。ここからしっかり売っていきたいと思います! (販促ではZESDAの丸山さんにサポートいただいています!)
というわけで、『新版プロデューサーシップのすすめ』、ぜひよろしくお願いいたします🙇
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