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意を決してBBCドキュメンタリー『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』を観た | にどね研究所

意を決してBBCドキュメンタリー『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』を観た

社会

ジャニーズ事務所前社長である故・ジャニー喜多川氏の、所属タレントに対する性的虐待を取り上げたBBCのドキュメンタリー『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』。公開されて以降、この問題が非常に話題になっている。

僕も当然、この「疑惑」についてはなんとなく知っていたし、先日の日本外国特派員協会でのカウアン・オカモト氏の会見のニュースにも接していた。

SMAPの曲は好きなので今でもときどき聴くし、KinKi Kidsも好きで聴いている。嵐は、『花より男子』で道明寺司役を演じた松潤が大好きになってしまった。最近では『ラーゲリより愛を込めて』での二宮和也の熱演にとても感動した。

カウアン・オカモト氏の会見以降、家で仕事中にSMAPの曲を聴いていたら、今までと違う感情が生まれているのを感じた。SMAPはすごい人たちだと思っていたが、今は「辛いことをひたすら耐えてスターになった」ということの重みが、以前とは少し違った重みに感じられてしまう。

野球のPL学園のことも思い出した。ここ数年、元プロ野球選手のYouTubeチャンネルではPL時代のことを振り返るのが鉄板ネタになっている。PLで心身ともに暴力のもとに置かれる過酷な状況を経験しているから、プロ野球入りを果たし、そしてプロで名選手として活躍できている人が多いのかもしれない。ただ……どうも、そのことを肯定できない感情がある。

うーむ……と思って、そういえばBBCのドキュメンタリーを自分ではまだ観ていないことに思い当たった。「なんとなく知ってることだし」と思っていたが、それよりも「つらいものをわざわざ観たくない」という思いもあったかもしれない。そこで昨晩、「いや、頑張って観てみよう!」と思って、意を決して観てみた。

このドキュメンタリー『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』はAmazon Primeで、BBCワールドニュース2週間無料体験で観られる。公開は4月18日までらしいので、気になっている人はなるはやで観たほうがいい。

Bitly

以下では感想を書きます。

感想……といっても、正直、言語化できるほどの感想が出てこない。でも、「観ても観なくてもどっちでも同じだったな」とは思わない。考えをまとめるためにも、参考になりそうな情報を紹介していきたい。

このドキュメンタリーのなかでひとつ象徴的な言葉として出てくる「グルーミング(性的グルーミング)」については、TBSラジオ「荻上チキ・Session」で先月末に特集が組まれていた。

また、取材を担当したジャーナリストのモビーン・アザー氏が、トラウマセラピストの山口修喜氏に取材した記事も出ている。

性的虐待の被害を受けた男性を専門に支援するセラピストは、日本では少ない。その数少ない1人の山口氏は、「日本には恥の文化があります。なにか個人的な問題を抱えていても、日本人はそれを口にしない」とアザー記者に説明した。

さらに、「性的虐待では、特別な絆が生まれることがある。それがグルーミングです。そうしたものが、性的トラウマをとても複雑なものにしている」と山口氏は指摘し、「回復への第一歩として、まず被害に遭ったと認めることが必要です」と話した。

グルーミングとは……性的被害専門のセラピストに聞く ジャニーズ事務所取材のBBC記者 – BBCニュース

この問題でしばしば言及されている「グルーミング」「トラウマボンド」は新しい言葉なので、なかなか理解が難しい。おそらく、すでにある心理学概念としては、「ストックホルム症候群」「リマ症候群」などと関連づけて理解することも可能だろう。

また、アザー氏と、番組ディレクターのメグミ・インマン氏のインタビューが朝日新聞GLOBE+に出ている。この問題を扱った記事のなかでは、現時点でもっともクリティカルなところに到達している内容であると思う。アザー氏は以下のように言う。

重要なのは、多くの人々が虐待を経験したかもしれないということ、そして多くの人がジャニー喜多川氏の構築した「機構」を通ったということです。

そうした人々は、自分の身に何が起きたのか認識する準備ができていないかもしれません。認識できていないこと自体はまったく問題ないことです。(社会からの)支援の手と深い思いやりが必要だと思います。

被害者を中心に据えたアプローチを常に忘れてはいけません。そうした個人がどのようにこれからの人生を歩んでいくか、人生を機能させるかが最も大切です。ドキュメンタリーが放送され、記事が出て議論が盛んになるにつれて、多くの人が過去10年、20年、30年、40年の間に自分の身に起きたことについて考え、理解すると思います。これは進行中のプロセスであり、支援と深い思いやりが必要だと思います。

ジャニー喜多川氏の性加害疑惑追ったBBC番組制作陣が指摘した「グルーミング」の手口:朝日新聞GLOBE+

この問題をめぐる世論は混乱している。僕自身はライトなファンではあるが、「疑惑(ただ、東京高裁で2004年に事実認定がされているので疑惑ではない)」を知ってはいても、「そういうこともあったのかな。でもみんなじゃないだろうな」と、なんとなく思っていた。いや、そこまで言語化されてすらおらず、言語化以前の「感覚」の段階で止まっていた。

しかしドキュメンタリーを観て、さらにカウアン氏の会見内容を知って(ニューズウィーク日本版で全文文字起こしが出ている→【全文】元Jr.のカウアン・オカモトが「ジャニー喜多川氏の性加害」会見で語ったこと|ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト)、この問題がおそらく自分が思っていたよりも遥かに大きな広がりを持っているだろうことが直感された。「スターになったということは、努力したということ」というのはそのとおりなのだろうが、その「努力」の中身がおそらく、僕が思っていたよりもはるかにむごいものだったのだ。

自分の場合、メディアが騒がないからと周囲に流され、それほど大変な問題ではないような錯覚に陥ってしまっていた。だが、そういった周囲の反省はもちろん大事なのだが、もっとも重要なのは、アザー氏の言うように「これは進行中のプロセスである」という認識をもつこと、被害を受けた人たちへの「支援と深い思いやり」なのだろうと思う。

その上で、この問題に関する丁寧な検証報道をメディアに求めること、さらには警察に捜査に動いてもらうこと。そこまでが最低限のラインである。「警察の捜査」などというと、突飛なことを言っているようだが、この問題はメディアや社会も当事者として含まれる大規模な性犯罪だということを、当たり前の認識として市民は持ち直さなければいけない。警察はジャニーズ事務所に立ち入り、きちんと捜査し、検察が立件する。それと同時に、たとえ悪意はなくとも「見てみぬふり」をしてしまったファンやメディアが自身をみつめなおし、被害者たちを支援し、より前向きな未来に向かって歩み直すプロセスを、ゼロから編み直さなければならないのだと思う。

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