大変なことを先にやるのがいいか、まず気楽にできることから手を付けて着火するのがいいか

アイデア

これを書いているのは月曜の朝である。すでに今週やることのリストアップはして、やる順番も大まかに決めてあったのだが、そうはいっても実際にどうやるのがいいかは悩ましい。タイトルを「大変なことを先にやるのがいいか、まず気楽にできることから手を付けて着火するのがいいか」としてみたが、今日は仕事を始める前に、それについて考えてみようと思う。

①大変なことを先にやるタイプ

編集者の佐渡島庸平さんの著書『ぼくらの仮説が世界をつくる』(ダイヤモンド社、2015年)に、こんな話が出てくる。

 会社員時代、ぼくが電話している様子を見た席の近い先輩から「佐渡島は、嫌な仕事から順に電話かけてるな」と言われたことがあります。

 たしかにぼくは、出社したら、かけづらい電話や処理したくないメールから片づけるようにしています。トラブル関係の電話やメールは、遅くても 24時間以内に処理します。トラブルが起きそうだと、すぐに電話で対応。どうしても忙しくてその日に対応できなかったりする場合も、次の日の朝には対応しています。

 マイナスになりそうな案件は全部すぐに潰す。「どういう言い方をしようか……」「これを断ったらどう思われるだろうか……」などと悩む時間が無駄だからです。

 よく、やりやすいところから手をつけて行く人もいますが、その方法だと気が重いものが手元に残ります。すると、どんどん嫌になって動けなくなってしまいます。

 企画を中止するとか、断るとか、前言を撤回するとか、どう言おうかなと悩む案件ほど、なるべく早く処理をする。先送りしても状況が悪くなることはあっても、良くなることはまずありません。

 マイナスの案件を片付けると、手元には楽しいことだけが残ります。すると、ワクワクすることなので、勝手にのめり込む。「自分が勝手に働くような仕組み」を自分で作っているわけです。

 こういう状況にできれば、仕事を仕事と思わないようになる。つねに「手元にやりたい仕事しかない状態」にしておくと、毎日が自然と楽しくなっていくでしょう。

佐渡島庸平『ぼくらの仮説が世界をつくる』ダイヤモンド社、2015年

いわゆる「先憂後楽(※)」というやつだ。これは自分もわりとやっていることではあって、トラブル対応などで電話をかけないといけないときにはさっさとやってしまう。

※もともとは「為政者は常に民に先立って国のことを心配し、民が楽しんだ後に自分が楽しむようにすべきである」という意味なのだが、転じて「先に苦労すれば、後で楽ができる」という意味としても使われている。

でもその一方で、「必ず嫌なことを先にやる」と決めてしまうと、コンディションが悪いときにはきつくなってしまうと思う。

おそらく、自分の心身のコンディションがまあまあ良いときには、このやり方でやってもいい、ぐらいのほうがいいかもしれない。そしてそのためには、早く寝る、睡眠時間をたっぷりとる、運動をする、食事をバランスよく済ませておく、日々のルーティン(自分に課題として課しているちょっとしたことなど)はこなしておく、などがよさそうだ。

それと、作業内容にもよる。トラブル対応など緊急でやってしまったほうが後で傷口が広がらないタイプのことはさっさとやってしまったほうがいい。

だけど僕の場合、そういう種類のものではない難易度の高い仕事、たとえば作業量が必要なもの、企画力が必要なものに関しては、スケジュールを考えて「この日のこの時間にやる」ということをまず仮入れしておく。とはいえ早めに手を付けてバックグラウンドタスクが走るように起動させておいたほうがいいので、「とりあえず着手する」というのはやっておいて損ではないのかなと思う。たとえば、処理したくないメールは、相手に送らないまでも文面は先に考えてみてバックグラウンドタスクで寝かせて、あとで見直して送る、などである。

それと、連絡系に関しては初期対応。具体的な返事はすぐにできなくても、「確認しました」「拝受しました」ということはひとまず先方にさくっと伝えて、相手にまずは安心していただくことは信頼感につながる。ついでに「いついつまでに改めてお返事します」ということも同時に伝えるのがよりよいが、これは実際にできそうな日よりも2〜3日程度は余裕を持った日にちを伝えておくのがいいだろう。早めにできたら早めに送ることで信用を貯金できるし、実際にやる日にやってみて見積もりよりも時間がかかっても、先方に伝えた締切は守れる。締切というものが自分で決められる場合は、そういう工夫はしていいのかなと思う。

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②まず気楽にできることから始めて着火させていくタイプ

ターザンで千葉雅也さんにインタビューしたときに、千葉さんがこんなことを言っていた。

なんでも頭でっかちに言語的に考えて物事をコントロールしようとしすぎると、いろんなことが硬直化するわけです。そうではなく、言葉にはならないけれども「なんとなくこれかな」とか「なんとなくこれは嫌かな」とか、そういう要素を“多少は”取り入れてみる。

人間って、最初にやりたくないことでも、とりあえず軽い作業から始めるとエンジンがかかってきて、連鎖反応的に色んなことができるようになったりするわけです。たとえば僕は原稿を書くときに、いきなりちゃんとした原稿を書こうと思うと大変だから、まずはとりあえずTwitterで何か言って、そこから最初の着火が起こって、その火を別のところに燃え移らせていく、というふうにやっています。

――なるほど…! おそらく私も含め、多くの人が「仕事にとりかかるときにはTwitterはやらないようにしよう」とか「息抜きのときにだけSNSを開いてOK」というふうに考えているんじゃないかと思います。でも千葉さんの使い方は逆で、Twitterをスターターのようなものとして使っているんですね。

そう、とりあえずツイートして、メールチェックして、返事をして、それからインタビュー原稿の直しをやって…と、軽い感じのものからやっていきますね。筋トレも同じで「切れ目を入れない」「やる順番も、より柔軟にする」というのがいいですね。

哲学者・千葉雅也に聞く、自らの“有限性”と向き合うための方法論──完璧を求めない筋トレのあり方とは | Tarzan Web(ターザンウェブ)

佐渡島さんと対照的なようであるが、千葉さんは「軽い感じのもの」からやっていくのだそうだ。これはこれでおもしろい。僕が問いかけでもまとめているように、Twitterという一般には「息抜きのときにやるもの」と思われているものを、千葉さんは逆に捉えてスターターとして使っているわけだ。こういう逆転の発想ができるのがおもしろいなと思う。

実は、佐渡島さんのやり方は、サラリーマン的、会社員的かなと思う。つまり、プロデューサータイプ、実務タイプの人にはフィットするやり方である。一方で千葉さんのやり方はクリエイター的、作家的だ。

自分がどちらのタイプなのかとか、2つのタイプのうち自分の割合は何対何か、今は実務モードなのかクリエイターモードなのかでも違うように思った。

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▲千葉さんも登場する『ライティングの哲学』には、アウトライナーを用いた文章術の話がけっこう出てくる。個人的にアウトライナーは、それで著書の企画書を作って通った(まだ出てない「文化系のための野球入門」ですが…)のでお世話になった気はするが、アウトライナーを使ってまとまった文章を書くのは案外難しいという実感を持っている。

結論としては、佐渡島さんのやり方も、千葉さんのやり方も、両方あるのかなと思う。で、実は最近すごく思ったのが、人から学んだことがそのまま自分に応用できるわけではない、人から学びつつ自分に合ったやり方を見つけていくのがいい、ということだ。これもまたよく言われるが、人間というのはそれぞれ成り立ちが違うので、人から学びつつ実践してみて、なにか自分には合わないなとかそういう直感にちゃんと気付けるようにセンサーを働かせて、柔らかくカスタマイズしていく。

僕の場合、「憂」を先にやるのがいいときは、緊急性が高いとき、心身のコンディションがいいときだ。そうではなく、ちょっと疲れてるなとか、制作に集中できる期間のときは、千葉さんのやり方もいいように思う。

で、疲れてるときは無理せずリラックスして休む、これもよく言われるけれども休むのには決断が重要だと思う。「あーもうやめたやめた、休む!」と決める。だけど「休む」という決断ができないとダラダラ仕事をしてしまい、疲れが更に蓄積して状況が悪化するということも、けっこうある。

それと最近ブログをよく書いているのは、自分にとってのスターターみたいな意味合いもある。Twitterよりも読まれることは少ないけれど、でもまとまって書けるのがいいし、後で読み返しやすい。「このときはこんなこと考えたんだな、アホだな^^」と思うときもある。でもそれって残しておかないと「当時どんなことを考えてたのか」を忘れるので、残しておくのもありなのかなと思う。

さて今日は、まだ10時にもなっていないので、どっちから手を付けていこうかな。決められていない(笑)。ちょっとタバコでも吸いながら考えてみようと思う。

(了)

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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