定期的に思い出す「女子マネージャー運動不足問題」

(Do) Sports

運動部の女子マネージャーについて、近年のジャーナリズムでも「性差別ではないか」と問題視されることが少なくなかった。

僕は高校時代まで男子校で、大学時代に野球部にいて、そのとき初めて「女子マネージャー」という存在に接したので、それなりに現場の感覚はあると思う。

で、前述のジャーナリズムでの「女子マネージャーは性差別」論は、たしかにそういう部分もあるにはあるのだが、彼女たちの主体性をまったく無視していることが非常に問題だと思う。それは書き手の人たちが「文化系」のアイデンティティを持っていて、「体育会系」の文化に何でもかんでも批判的だから、構造ばかりに目が行ってしまっていて、一人ひとりの主体性に目が向いていないから起こることだ。

そのような解像度の低い論説がメディア上に出てしまい、大して批判されないのは、「体育会系」の側がこの問題に関心が低かったりするということもあると思う。ジャーナリズムではなく学術分野での研究の蓄積はけっこうあるのだが、それがきちんと取り上げられていない。まあこの問題は、どこかでしっかりまとめる必要があるように思う。

ところで僕の大学時代、一時期「マネージャー運動不足なりがち問題」が、持ち上がったことがあった。結局大して議論されずに流れていってしまっていたが、「せっかく運動部に所属しているのに、マネージャーが運動不足を抱えているのは問題ではないか?」というのは、なかなかクリティカルな問題提起だった気がする。

マネージャーの仕事というのはいろいろあるのだが、普段の練習の飲み物の用意、試合でのスコアブック付けとデータ管理、場内アナウンス、グラウンドのネット補修や用具の補充とメンテナンス、選手の健康状態のログ作り、練習や試合のビデオ撮影と編集、試合の写真撮影、SNSへの動画・写真・試合経過や結果のアップなどの広報業務、新入生勧誘の計画・企画づくりなどの「採用」業務、年間計画の作成、試合をする相手チームとの日程・場所調整などの折衝、OBOG会の対応といった主務業務などがある。

「んなもん選手の自分たち(男子たち)でやれや!」と、今は思わなくもない。

とはいえ、女子マネージャーを志望する人というのは、根本的には「自分もスポーツに参加したい」という思いがあったりする。運動神経に自信がなくて自分でプレーしたいとまでは思わないけれど、好きなスポーツに参加していきたい。「する」ではなく「ささえる」でスポーツに参加したい、という思いがあるようである。

だが、基本的にカラダを動かしているわけではないので運動不足になりがちなのだ。夏の暑い日などは、暑熱順化の訓練をそれほどしているわけではないので、とくにきついはずである。

これを書いていて思い出したのだが、『負け犬の遠吠え』で有名な酒井順子さんの著書に、『男尊女子』というとても面白い本がある。これはたしか、女子校でいきいきと生きてきた酒井さんが、大学に入って「嬉々として運動部の女子マネージャーになっていく同級生たち」への違和感が出発点になって書かれた評論・エッセイだったと思う。「運動部の女子マネージャーには『ならない』女性たち」の視点で、「『なっていく』女性たち」について書かれているので、なかなかおもしろい。

酒井さんの視点は、高校までは主体的だった女子たちが、なぜ大学に入って従属的な立場に自分から向かっていくのか? という文化論的なものだ。たしかに自分の大学野球部の女子マネージャーは、女子校出身の人が体感的にはとても多かった。しかも感性がオタク的だったりもして、面白い人たちだった。たしか高井 昌吏氏の『女子マネージャーの誕生とメディア』でも、女子マネージャーの人たちはホモソーシャルな絆に対する憧れをもつ傾向があるということが指摘されていたように思うが、それもあながち間違ってはいない気がする。

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また話がそれたけれど、本当だったら「女子マネージャー運動不足問題」はもう少し考えたほうがいい。せっかくスポーツに参加しているのに、スポーツの機会が開かれていないのが当たり前になってしまっている。

少し前に「高校野球で女子マネージャーがノッカーをしている」ということがメディアで話題(問題?)になっていたが、それは主体性の発露でもあると同時に、「女子マネージャー運動不足問題の解決」というのにもなっていたのかなと、改めて思う。

それとは別に、これは言及しづらいのだが、数年前に、野球部の女子マネージャーが学校から離れたグラウンドで練習後に、走って学校まで帰って、低酸素脳症になって死亡するという、非常に痛ましい事故もあった。これは明らかに指導者の安全配慮義務違反であるが、調べてみると事件の背景は非常に複雑なようだった。

ただ、こういったことの根本には、「女子マネージャー運動不足問題」も、やっぱりあるように思うのだ。スポーツに参加しているのに、「するスポーツ」によってもたらされる体の強さのような恩恵にはあずかれていない。これはスポーツにおけるジェンダー差の問題、つまり「女子は幼少期からスポーツに積極的に参加しづらい」という問題も孕んでいる。なかなか一筋縄ではいかないと思う。

このあたりの話はもう少し整理して、そのうち文章にまとめてみたい。

(了)

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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