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片岡安祐美さんのNumberインタビュー記事を読んだ(あるいは「観客のスポーツマンシップ」について) | にどね研究所

片岡安祐美さんのNumberインタビュー記事を読んだ(あるいは「観客のスポーツマンシップ」について)

(Watch) Sports

片岡安祐美さんのインタビュー記事がNumber Webで出ていた。

女子アスリート特集の裏で「なんか嫌だねって」“野球界のアイドル”と呼ばれた片岡安祐美(35歳)の本音「プレーを見てほしかった」 – プロ野球 – Number Web – ナンバー

全3回で、この記事は3回目。ライターは小泉なつみさんという方。

この話がめちゃめちゃ、あるあるだなと思った。

1人の野球選手として認めてもらうにはみんなと同じことをやらなきゃいけない。同じことをやれば認めてもらえるはずだという思いが自分の中にずっとありました。それでも、私がバッターボックスに立つと極端な前進守備を敷いてきたり、ピッチャーがなめたゆるいボールを投げてきたり。

うちの野球チームにも女子選手がいて、打席に立つと緩いボールを投げてくる輩がいるのである。実際その現場を目にして、やりづらいだろうなと感じた。というか、セクハラじゃないのか!?と、こっちだって思う。

恥ずかしさや悔しさで頭がカーっとなって、いつもの冷静なプレーができなくなる。そういうことは大いにあるのだろうと思う。

こういうときに片岡さんはどうしたのか。

ゴールデンゴールズの公式戦で、相手ピッチャーになめた態度をとられた上に結果も残せなかったことがあってふてくされていたら、当時のチームメイトで元中日の酒井忠晴さんに言われたんです。「どんなボールでも野球人なら打って結果を見せればいいだけ。結局、お前自身が一番、女であることにひっかかってるんじゃない?」と。全部そのとおりだと思って、ファミレスで号泣しました。

うんまあ、酒井さんの言葉は厳しいけれど、頭がカーっとなってしまっているのを、プレイヤー自身が冷静になることで、いつもどおりのプレーができるようになるというのは、対処療法としてはたしかにそのとおりだ。

でも……それでも、相手の非礼を、男子選手や指導者が咎める、ということはあってもいいはずだと思う。というか、それより前に、試合前に「うちには女子のプレイヤーがいますが、過去に女だからと非常に失礼な態度を取ったり、あからさまにスローボールを投げてきたり、前進守備を敷いてくるチームがありました。本人は日々、一生懸命準備して試合に臨んでいるので、他の男子選手と同じように相対していただけるとありがたいです」ということを、相手チームの指導者に伝えておく、ということが必要だと思う。

何か事が起きてから咎めるよりも、事前にコミュニケーションをとる。そうすれば、感情的な反発だって起きにくいだろう。まずは知識を伝える。そういうことは、男子選手や指導者の役割でもあると思うのだ。

しかし、ネットを見ていて、この片岡さんのインタビュー記事に対する風当たりが強いことがわかった。「今更そんなことを言っているが、当時はそんなこと言ってなかったじゃないか」「野球界のアイドル、というメディアの取り上げられ方に乗っかっていたじゃないか」、と。

うーん、当時は違和感を感じていても、言い出しにくかったし、言語化がうまくできなかったのだと思う。当時からそういう違和感を感じていたことは、インタビュー内でも語られている。

男子に混ざって野球をする、という人をこれまで何人か身近でも見てきたが、よくその人のことを見て、さらに話を聞いたりすると、男子選手が想像もしないような大きな困難があるということがわかってきた(たとえば、着替える場所がない、トイレがない、などはそのわかりやすい事例だ。遥か手前の部分での困難が多数ある)。こういう知識は、普通にプレーしているだけでは男子選手はなかなか知ることができない。

そして観客の側も、そういう女子選手の困難に想像が及んでいない。

もっとも、突き詰めて考えると、「観客のスポーツマンシップ」の欠如が問題である。スポーツマンは、リスペクトの精神が大切。片岡さんは、誰もやっていなかったことに挑戦し続けてきた人だと思う。その意味では、もしかしたら村上宗隆よりも、レジェンドかもしれない。

「挑戦することに対してリスペクトを持つ」ということはスポーツマンシップの基本である。こういう基本を押さえていくと、スポーツにまつわる事象をよりきちんと感じられるようになる。スポーツという文化への解像度を高めるためにも「観客のスポーツマンシップ」は大切なのだ。観客のスポーツマンシップについては、次回の「文化系のための野球入門」で書いていこうと思う。

さて、残りの仕事は、原稿1本、企画書2本になった。短時間集中して進めていこうと思う。

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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