キャバーブ道修行

人類学

 今回は、イランの代表的な料理であるキャバーブについて書きたいと思います。「キャバーブ道」なるものがあるわけではありませんが、イランでイラン人と一緒に生活して学んだキャバーブを焼く技術についてのコツなども紹介できたらと思います。

 最近では、日本でも「ケバブ」がかなり広まってきていると思います。祭りの屋台にもでかい肉の塊がぐるぐると回転してそれをそぎ落としてピタパンなどに挟んで食べるやつです。実は、これはドネル・ケバブと言う、ケバブの一種にすぎません。ケバブ(ペルシャ語ではキャバーブというので以後キャバーブとします)は「焼く」という意味なので、食品を火にくべて焼く料理全般をさすのです。

 イラン料理には様々なものがありますが、大別するならば、(炊き込み)ご飯、煮込み、そして、キャバーブになるといっても過言ではないと思います(もちろん、これに当てはまらないものはあります)。そしてキャバーブは街の安食堂から、高級レストラン、そして家庭において、様々なレベルで食べられている料理です。その意味で、単純にして奥の深い料理だと思っています。

 基本的にイランにおいて代表的なキャバーブは鶏肉のキャバーブと、牛や羊のひき肉をねって串にさしたクービーデと呼ばれるものです。

ひき肉をこねたクービーデ。肉とつなぎの割合や油の量など、店によってクオリティはさまざまです。高い店だから良いというわけでもありません。
借りた家の近所にあったお気に入り安食堂「ハーシェミー」の鶏もも肉のキャバーブ。この店は、内装は地味ですが、チェロウ(白米を炊いたもの)もイラン産でおいしく(店によっては、コスト削減のために、まずいインドの安米を使っているところもあります)、値段も安く抑えられています。数人の友人を連れて行ったことがありますが、皆満足していました。

 高級レストランでもキャバーブがあります。羊のバラの骨付き肉のキャバーブ(イランではこれがシーシュリークと呼ばれます)は最高においしいです。

「シャーンディーズ」という名前のレストランのシーシュリーク。マシュハドという都市の近くにある シャーンディーズ 村の羊は有名ブランドです。

家でも外でもバーベキュー

 さて、安食堂から高級レストランまでキャバーブがあることをみてきましたが、キャバーブは家庭料理でもあります。一般に、どんな家でもキャバーブを作るためのコンロと串はあるし、中には台所の壁の中に炭焼用のグリルが備え付けられている家もあります。家庭では、キャバーブの火おこしは男性の仕事であることが多いようです。

ベランダがあればそこでキャバーブを焼きます。

 また週末になると家族や友人とピクニックに出かけることも多いです。そんな時にキャバーブを焼いて食べるわけです。

イラン暦の正月(=春分の日)休暇最後の「自然の日」には人々は郊外に出かけてピクニックをすることが習わしになっています。これは2015年にアーモルというカスピ海沿いの都市の大家族をお邪魔した時の写真です。北部では羊よりも牛を多く食べる印象があります。自然に囲まれて食べるキャバーブは一段とおいしく感じます。

自宅でキャバーブを作る

 家でキャバーブを作るために必要なのは、マンガルと呼ばれるバーベキューコンロと、スィーフと呼ばれる串です。串は食器屋などで売っています。私は日本でもキャバーブを作るために、帰国のたびに何本か買って持ち帰りました。

 余談ですが、アエロフロートに乗ってモスクワの空港でトランジット中に、トランクの中を開けられて検査されるということがありました。おそらく、X線で、キャバーブ用の串が危険な武器だと思われたのでしょう。荷物を日本で受け取った時にトランクの中を開けましたよ、とロシア語で書いてある書類が入っていたのです。幸い、紛失していると思われるものはありませんでした。

 道具を揃えたところで、次に必要なのは炭です。イランではそこかしこにある売店でキャバーブ用の炭が売られています。 キャバーブ用の炭は日本でバーベキュー用に売られている炭よりも軽く、すぐに火がついてすぐに燃え尽きます。これは、肉を焼く作法の違いと関係しています。イランでは串に刺して並べて一気に焼くので、コンロにまんべんなく火のついた炭が行き渡っていることが望ましいわけです。一方で、日本の標準的なバーベキューのように網の上で順次、肉を焼く場合には、火が長持ちする方が望ましいわけです。

持ち帰った串で日本で作ったキャバーブ。見た目の焦げに騙されずに中までしっかりと火が通るように焼くには慣れが必要。

 ひき肉をこねるクービーデは少し難しいので(焼いていると串から剥がれ落ちてしまう……)、私は鶏肉や羊肉の小さな塊でキャバーブを作ります。

 肉はまず適当な大きさに切ります。そのまま塩コショウで焼いてもいいのですが、イラン流ではマリネしてから焼きます。マリネに必要なのは、玉ねぎです。みじん切りにしてもいいのですが、ミキサーにかけるとなおよしです。

 そして、そこに塩やコショウ、ターメリック、レモン汁などを加えていきます。イランで重要なのはサフランです。お湯に浸して抽出してからマリネ液に加えます。そして串に刺していきます。肉を少し力を入れてつまみ、うまく真ん中に指すのがコツです。ずれると指に刺さって痛いです。

 また、骨付きの大きめの鶏肉を指すときには、写真のように斜めに刺していくのがコツです。串の幅が十分にない時に垂直刺してしまうと重さでぐるぐると回ってしまうからです。

 こうした実践知を、イラン人の友人たちとキャバーブの準備をしている時に習いました。

 イランでは串から肉を抜くときには、ナーン(インドと違い、ナーン〔テヘラン方言ではヌーン〕は一般概念で、小麦粉をこねて焼いたものすべてを指します)を使います。串をまとめて持ってナーンで挟んで上から手で押し付けて串を引くわけです。この時にコツがあります。いきなり引っ張ると結構力が必要なのですが、最初に串を少し押して、串の先端の肉を串から離してやると力を入れずともスッと串が抜けます(これ焼きとりにも使えるテクです)。それをきれいにお皿に盛ってもいいのですが、私がテヘランで家を借りている時に作った時はそのままナーンと一緒に食べたり、ご飯を炊いて一緒に食べたりしました。肉を取るのに使った肉汁が染み込んだナーンはひときわおいしく、客人がいる場合には先に勧めるものでもあります。

ナーンを買ったら、ビニール製のソフレと呼ばれるシートにくるんで冷蔵庫などに入れておくことが多いです。そうすると、朝などにもすぐに朝食を食べることができ、ナーンが乾燥してパリパリにならないようにすることができます。うっかり常温で保存してアオカビが付いたことなどもありました。

単純にして奥が深いキャバーブ

 このようにキャバーブは、イランのどこでも食べることができる料理です。作り方を見ればわかるように、非常に原始的な調理法だともいえると思います。それでも、肉質、切り方、味の付け方、焼き加減などいろいろと工夫の余地があります。上で紹介した種類以外にも地域固有のキャバーブがあったり、串に刺して焼くだけなので、様々な部位を応用することもできます。それについては、また別の機会に書きたいと思います。

 次回は、タクシーの変化について書きたいと思います。

谷 憲一

一橋大学大学院博士後期課程。W修士(一橋大、テヘラン大)。日本とイランを往復しながら人類学の研究に勤しんでいる。趣味は料理と筋トレ。
研究業績(researchmap) ☞https://researchmap.jp/tkstpauli

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