今回は野球におけるバッティングの基本について書いてみようと思います。野球の魅力は何と言ってもバッティングです。
自分の簡単なバッティング来歴
僕は今でだいたい野球を始めて20年になります。そこを書くと長くなるんですが、「偉そうに言ってるけどお前どんぐらいできんねん」となるだろうから簡単に書いておきますと……中学に入学してから部活で軟式野球を始め、中2秋〜中3夏はレギュラーで5、6番。高校で硬式野球に上がって、高2秋からレギュラーで最初は4番を任されるも、「長打を打たねば」という思い込みから感覚が狂ってとんと打てなくなり、最後の高3夏の大会は控え。大学でも野球部に入るが、4年秋まで試合で打席に立つ機会はほとんどなく、代走や守備で出る程度で終わる……という感じでした。
20代になって考え方を変えたときのこと
個人的に転機になったのは大学4年最後の秋のシーズンでした。このときには、もう自分は公式戦で打席に立つことはないだろうなという(ちょっと悲しい)確信がありました。どうせ試合では打つチャンスは貰えない、でもそのまま終わるのは悔しい。別に試合で結果を残せなくてもいいから、バッティングに関して「何か」を掴んで大学野球を終えたい、と思ったのです。
そこで、それまでの自分の思い込みややり方をすべて捨て、同学年でクリーンナップを打っていた2人の選手の打撃をよく観察し、学ぶことにしてみました。「この2人はセンスがあるからできるんだろう」という、自分の不必要なプライドの高さからくる卑屈な視点を捨て、真面目に話を聞き、ただ闇雲にやるのではなく、どうすれば良くなるかをしっかり考えて練習しました。
特にそのうちの1人で、自分と同じ右投げ左打ちで強打者として1年からレギュラーで試合に出ていたN君に教えてもらって、一緒に練習していきました。N君がマシンで打っているときには「生きた手本」をよく見て、彼がインターバルを取っているときに自分が打つ、という具合にです。「どうせ試合で打席に立つことはないだろう」と、誰からも思われている自分が、主力のN君と一緒に必死にバッティング練習をしているのは、はたから見たら奇妙な光景だったのではないかと思います。ですが、そのときに知って考えて練習して、掴んだものが確かにありました。結局、大学の公式戦ではついに披露する機会がありませんでしたが。
20代の終わり、草野球チームに誘われて入って、今も続けています。草野球といってもけっこうレベルに幅があり、まさに「草野球」というようなチームと対戦することもあれば、GBNという比較的レベルの高いリーグにも出ていて、そこは中学の平均的な部活以上〜強いと技量的には高校野球の神奈川大会2〜3回戦ぐらいの世界ではあると思います。
そんな感じで野球を再開したのですが、バッティングに関しては大学の最後で掴んだものがあったのでコンスタントに打てるようになりました。
シーズンや自分の練習量によってムラがあるのですが、この機会にこれまで5年間の通算打率を見てみたところ、.370で、チーム歴代1位でした。
しかも、学生野球のときには打てるようになるとは想像もしていなかった「柵越えのホームラン」も打てるようになったのです。「学生のときと比べると、多少はできるようになってきたかな?」という感覚はあります。
ただ、僕はいわゆるバッティングセンスのある方ではありません。昔から運動神経はないほうでしたし、体格に恵まれていたわけでもありません。
そんな感じで「センスのない」人間として、だけど今はそこそこバッティングに自信が出てきた人間として、バッティングのコツや、自分がチェックポイントとして持っているものを書いてみようと思います。
バッティングの目的とは何か?
バッティングの目的は、ヒットを打つということです。ヒットを打てたら楽しい。当たり前のようですがまず、ここを抑えておく必要があります。
では、どうやってヒットを打つのか? というと、大きく2つの方法があります。
- 遠くに飛ばす
- 人のいないところに打つ
(1)「遠くに飛ばす」は当たり前かもません。遠くに飛ばすことができれば、そもそも(2)の「人のいないところに打つ」もクリアできます。しかし、遠くに飛ばすにはパワーとコツが必要です。
一方、(2)「人のいないところに打つ」は、「遠くに飛ばす」よりも、かなりハードルが低いです。
内野ならピッチャーの後ろは大きく空いています。このエリアは通常、セカンドとショートのあいだなので「二遊間」と呼ばれています。ほかにも人のいないところはあり、「一二塁間に転がす」「三遊間に転がす」「ファーストの後ろに落とす」「サードの後ろに落とす」など、それほど「遠くに飛ば」さずとも、ヒットになるゾーンはいくつか存在しています。
とはいえ、狙ったエリアに打球を打つことができても、打球のスピードがあまりにも遅すぎると野手に簡単に捕られてしまうので、打球にはある程度のスピードも必要です。しかし「遠くに飛ばす」ときに必要になるようなすごいスピードは必要ありません。「人のいないところ」に、ある程度のスピードで打球を飛ばせるだけでいい。そのためには、小学校高学年ぐらいの力(男女問わず)があれば十分です。
基本はピッチャー返し(センター返し)
「どこに打てばヒットになるか」でいうと、一番確率の高い、かつ基本となるのは、「ピッチャーの後ろ=つまり二遊間に打つ」ということになります。ただ、あまりにも弱い打球だとピッチャーに捕られてしまうので、ピッチャーに捕られないぐらいのスピードの打球であることは必要です。そうなると、ライナー性で低く速い打球をピッチャーに打ち返す。これがバッティングの基本である、ということになります。
野球指導の現場で「センター返しを意識して打て」とよく言われるのは、要はこういうことなのです。ただ、「センター返し」という言葉遣いだと、ハードルが高く感じてしまうかもしれません。なにせ、センターの守備位置は打席から最低でも50mぐらいはあるので、それはけっこう遠く感じるように思います。だから「センター返し」よりは「ピッチャー返し」、「ピッチャー返しで、ピッチャーに捕られないぐらいのスピードの打球を打つ」、ぐらいに思うのがよいと思います。
長嶋茂雄・王貞治のバッティングに関する対談から学ぶ
では、ピッチャーに捕られないぐらいの打球をピッチャー返しするにはどうすればいいかというと、何よりも「タイミング」が重要です。
ここで、日本野球のレジェンドである長嶋茂雄、王貞治がバッティングに関して対談している動画を紹介したいと思います(時間のある人は全編見てみてほしいです)。昔のテレビ番組をアップロードしたもので、この動画がYouTubeにアップされていること自体がリーガルではありませんが、めちゃくちゃ貴重な話であり、後世に残す価値のあるものだと思うので、少し書き起こして、解説を加えてみたいと思います。なお、文中の太字は引用者=僕の判断です。
「タイミングが一番重要」ということの本当の意味
長嶋さん、王さんがしきりに言っているのが「タイミング」の重要性です。では「タイミング」とは何なのか、を見ていきましょう。長嶋さんは動画のなかで以下のように語っています。
長嶋:フォームってよく言いますね。言い換えればカタチですね。そのカタチに囚われる傾向に、ややもすると、今の選手はあるかもわかりません。ですからワンちゃん(引用者註:王貞治のこと)のように、または僕のように……僕の場合はどちらかというと、カタチのないタイプね。フォーム的には決していいフォームじゃありませんね。(中略)ワンちゃんでも、カタチそのものは決していいとは言えないでしょう。
元来、バッティングというのは、カタチやフォームで打てるというものじゃないという、それはまず、ひとつの大きなものじゃないでしょうか。あまりにも自分のこう、アドレス、スタンス、手の位置がどう、顔の位置がどう、そしてインパクトがどう、最後のインパクトのフィニッシュがどうという、フォームの形式のみに囚われすぎて……。
ですからね、僕はタイミングと思うんですよ。(ワンちゃんは)始動って言いましたけど、僕はハンドリングだと思うんですね。ハンドリングってのは手の部分ですね。(後ろの腕の)肩、肘、リストですね。この3つの部分的肉体をうまく使う。その使いこなしをできるのが、これがもうすべてタイミングということですね。それに腰、膝、足……下半身をヘルプというか、助けを求めることによって総合バランスをつける。
長嶋さんは、フォームよりもまずタイミングが重要である、ということをしきりに言っています。
長嶋さんといえば、独特の感覚的な言語センスで笑いのネタにされがちです。一般の人々(と、あえて言います)は、長嶋さんのファニーな言葉遣い――「力のパワーが」とか、「オールスターゲームは夢のドリームですから」「失敗は成功のマザー」とか、そういうやつです――、その表層にばかり目が行って、彼の言葉のなかにある本質的な部分を真面目に、真剣に解釈しようとしません。
僕は長嶋さんは、言葉の選びは変だけどそこに目を取られずにちゃんと真面目に聞くと重要かつ本質的なことを言う、すごい人だと思っているので、戦後日本社会が長嶋茂雄のことを「変なことを言う面白いおじさん」というふうに位置付けてしまったのは、大変もったいないことだと思っています。
話を戻します。
フォームを気にする前にまず「タイミング」。
バッティングは、フォームよりもまず、ピッチャーの球にどうタイミングよくバットをぶつけるか、なのです。自分が一番、ボールに力がぶつけられるポイントを知っておき、試合では、そのタイミングでバットをボールにぶつける。これがまず重要です。「タイミング」を合わせて打つことができれば、自然と腕や肩、下半身が協調して、ボールに力を伝えられる。だから、「タイミングが合う」ということができれば、フォーム=カタチの上でもバランスがよくなる、そういう順序で考えたほうがいいということです。
ちなみに最初のほうで僕は「高校・大学にかけてバッティングがわからなくなった」と書きましたが、このときはフォームをかなり細かく気にしていました。だからこそ、バッティングがわからなくなってしまったのだと、今ならわかります。
今もときおりフォームを気にし始めてしまうことがあります。でも、そうではなく、「いや、フォーム以前に、まずタイミングだ」ということを、この記事を書きながら、いま改めて思い直しています。
「じゃあタイミングはどうやって取ればいいのか」と思われるかもしれませんが、それは正直、一人ひとりのカラダの構造や身体感覚もあるので一概にこれと言えるものはありません。あくまで僕の場合は、ですが、タイミングよくボールにバットをぶつけるためには、「インパクトの瞬間だけ力を入れる」のがよいと思っています。
この記事はもう少し続きますが、一旦有料とします。定期購読マガジンも2022年11月頃から始める予定ですが、単体でも購入可能です。もし興味をお持ちでしたらご購入いただけると大変幸いです。(こういった記事の執筆の励みになります!)
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