『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で初めてガンダムに触れた人が過去作を遡る方法を考える

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今年(2021年)6月に公開された『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、作品の出来もさることながら、「これまでガンダムに触れたことがなかった人」にも、入門編として良い作品になっているのではないかと思った。

▼予告編

そう、『閃光のハサウェイ』は色んなガンダムシリーズの続編ではあるが、今っぽく作られているので古臭くないし、かといって昔ながらのファンが観ても楽しめるという、新規ファン開拓と古参の満足を両方満たすという高いハードルに挑戦して、そこをちゃんとクリアできているのではないかと思う。

なので、「ガンダムなんとなく気になるけど、何から見たらいいのかわからない」という人には『閃光のハサウェイ』は、入門編として最適な作品になっている。

▼『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』各動画サイトのリンク

そこで今回は『閃光のハサウェイ』を観てガンダムに興味を持った人が、どのようにしてガンダムの過去作を遡ればいいのかを考えてみたいと思う。

ガンダムの超基礎知識

ガンダムというのは非常にたくさんの作品が作られているが、超絶ざっくり言えば、「宇宙世紀」と、「それ以外」に分けられる。

ガンダムは「宇宙世紀」という世界が大きくひとつあり、これは”基本的には”「アムロとシャアの物語」である。

一方で、特に90年代、00年代以降たくさん作られた作品は、「宇宙世紀」とは違う世界線、パラレルワールドの話だ。『機動戦士ガンダムSEED』や『機動戦士ガンダム00(ダブルオー)』、『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』などはすべてパラレルワールドの作品である。

では「宇宙世紀」とは何かというと、”基本的には”「アムロとシャアの物語」だと言ったが、ここのところがやや複雑なのだが、「アムロとシャアとは直接は関係ないけど宇宙世紀の話」、というのもけっこうあったりする。

そこで、「ガンダムのことをなんとなく知りたい」ということであれば、まずは「宇宙世紀」であり、かつ「アムロとシャアの物語」を見ていけばよいと思う。

宇宙世紀であり、アムロとシャアの物語であるもの

宇宙世紀であり、かつ、アムロとシャアの物語である映像作品は、以下の作品が該当する。

  • 初代『機動戦士ガンダム』(いわゆるファーストガンダム)※TVシリーズ、劇場版の2パターンがある
  • 『機動戦士Z(ゼータ)ガンダム』※こちらもTVシリーズ、劇場版の2パターンがある
  • (『機動戦士ガンダムZZ(ダブルゼータ)※TVシリーズのみ)
  • 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』※劇場版のみ(ただし小説版で『逆襲のシャア ベルトーチカ・チルドレン』という別バージョンの作品もあるがその解説は今は省略する)
  • 『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』※劇場版のみ(もともとは小説版しかなかった)

こう書き出してみるとかなりゴチャゴチャしていて、TVシリーズと劇場版の2パターンがある作品もあるので、非常にわかりにくい。

アムロとシャアが明確に出てくるのは、『機動戦士ガンダム(ファーストガンダム)』『Z』『逆襲のシャア』の三作である。『ZZ』は、おそらく観なくても『逆襲のシャア』『閃光のハサウェイ』はわかるし、アムロとシャアは直接は出てこない(作中で二人の存在自体は出てくる)ので、一応カッコをつけておいた。

『閃光のハサウェイ』で初めてガンダムに触れた人が過去作を遡る方法を考えてみる

では『閃光のハサウェイ』で初めてガンダムに触れた人が、「まずはアムロとシャアの物語を追いたい」と思ったときにどうすればいいのか。これはいろんな意見がありうるが、大きく下記の2つかなと思う。

(1)普通に時系列で観る方法(=ハードランディングないし胴体着陸)

おそらく王道は、時系列順(放映順)に見ていくことである。僕が大学生のときに歳上の人たちから教わったのは、「まずファーストガンダム劇場版三部作から観る」という方法だ。

ファーストガンダムは下記の劇場版三部作がある。

  • 『機動戦士ガンダム』
  • 『機動戦士ガンダム II 哀・戦士編』
  • 『機動戦士ガンダム III めぐりあい宇宙(そら)編』

これは劇場版なので、TVシリーズを再編集したダイジェストにはなっているが、TVシリーズ全43話を全部観るほどには時間がかからず、また、よくネットなどで出てくる「認めたくないものだな。自分自身の、若さゆえの過ちというものを」「親父にもぶたれたことないのに」「ザクとは違うのだよ!ザクとは!」とかそのへんの名言シーンは網羅されている。

劇場版をひととおり見たあと、気になったらTVシリーズを観てもいいだろう。また、知識の補強とか「ここどうなってるの? よくわからんかったんだけど……」というときは、これも正直賛否両論あるのだが、個人的なおすすめはキャラクターデザインを務めた安彦良和による漫画『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を読むことである(アニメにもなっている)。これはファーストガンダムとほぼ同じ時系列を、ちょっと違う視点から描いた作品になっているので、「そうだったのか」ということがわかる。

ただし、『THE ORIGIN』は、あくまでも監督の富野由悠季視点ではなく「安彦良和視点」での史観であることへの注意は必要だ。伝統的なガンダムファンからはそこまで評判のいい作品ではない。聞くところによると、シャアの造形に問題があるらしい。僕は後追い勢なので、そのあたりの機微をあまりよく理解はしていない。

ファーストガンダムをクリアしたら直接の続編の『Z』に進むことになる。ここで注意したいのが、『Z』はダイジェストになっている劇場版よりもTVシリーズを観たほうがよいということだ。なぜかというと『Z』は非常にわかりにくい作品で、それが劇場版ではさらにダイジェストにされていて、とても理解が追いつかない。主要キャラの一人であるジェリドがほぼ掘り下げられていないという問題もある。おまけにラストに大きな変更が加えられている。なのでZ劇場版は、TVシリーズを観てから余力があれば観ると、ちょっとした感動はあるが、必須ではないと思う。

ちなみにTVシリーズですらわかりにくい『Z』を理解するには、宇野さんがむかし地道に書いていたという『Zガンダム回顧録』というブログで、(かなりアイロニーが効いたものではあるけれども)各話解説が読めるので、理解の助けになる。→ Zガンダム回顧録

そして『Z』の直接の続編である『ZZ』は、これは個人的にはすごく好きな作品ではあるが、伝統的なガンダムファンからの評判は非常に悪い作品であり、「アムロとシャアの物語」と直接は関係ない。また、これも複雑な問題であるが、『Z劇場版』は基本的に『ZZ』の話をまるごとキャンセルするような内容になっている。監督の富野由悠季自身が『ZZ』をあまり気に入ってないから、らしい。

個人的なおすすめは、ごく普通に、『ファーストガンダム』劇場版三部作→『Z』TVシリーズ→『ZZ』TVシリーズ→『逆襲のシャア』と、ごく普通に放映順(制作順)に進んでいく方法だ。ここまで来たら、『逆襲のシャア』がよりよく理解できる。

しかし問題は、これ(王道を往く方法)をやるとものすごい時間がかかる、ということだ。特に、ファーストガンダムから『Z』のTVシリーズへと進んでいくと、話のわけのわからなさと、作画や物語面での若干の古臭さなどもあって、20代以下にとっては大変な苦行になる可能性がある。なのでこのやり方を「ハードランディングないし胴体着陸」、というふうに定義してみた。

(2)『ハサウェイ』のあとにいきなり直接の前作『逆襲のシャア』を観てしまうという方法(=ソフトランディング)

思うに、そうした苦行を経ずとも、普通に『閃光のハサウェイ』直接の前作である『逆襲のシャア』を観てしまってもよいと思う。少なくとも、『閃光のハサウェイ』を観て生じるであろう「クェスって誰やねん!」という疑問はすぐに解消するはずである。そして、ハサウェイが何者であるかもわかる。

また、極めて現代的な作劇&作画である『閃光のハサウェイ』からいきなりファーストガンダムに戻ると、その作劇・作画の古臭さに心折れる可能性がある。だが、『逆襲のシャア』は映画として極めてまとまっている作品だし、ファーストガンダムに比べればだいぶ近代的(!)な絵作り・話作りになっているので、ソフトランディングできるのではないかと思う。そして『逆襲のシャア』で多少の古さに身体を慣らしておけば、ファーストやZにも着地できると思う。

『逆襲のシャア』を観れば、おそらく「このシャアとかアムロって一体なんなん?」という興味が湧くはずなので、過去作を観るモチベーションもそこそこ保てるのではないかと思う。なのでそこからは普通に『ファーストガンダム劇場版』→『Z』と進めばよい(余力あったら『ZZ』TVシリーズも……)。

▼『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』各動画サイトのリンク

胴体着陸か、ソフトランディングか

基本的に、『閃光のハサウェイ』を観たあとにいきなりファーストガンダムに遡るのは、いきなり10℃の冷水に飛び込むようなものというか、ハードランディングないし胴体着陸な感じがある。なので、「あえて苦行も厭わぬ」という人、「絶対に途中で挫折せずに見きる」と約束できる人は、やってみてもいいと思う。

個人的には、「みんなが苦行をしないとガンダムを知れない」というのはもったいないような気がするので、『閃光のハサウェイ』→『逆襲のシャア』というソフトランディングのルートを試す人が多くなってもいいのではないか、と思う。

(了)

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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