とりあえずここ1年ぐらいは普段よりも野球に接することがすごく多くなってしまっているのだが、今年のWBC日本代表=侍ジャパンのドキュメンタリー『あの日、侍がいたグラウンド』を観てきたのでそれについて書きたいと思う。
このドキュメンタリー、やってるのは知っていたのだが、先日別の映画を観に行ったあと、同じタイミングで出てきた別のスクリーンの人たちの熱気がなんかすごかったので、「何の映画だろう?」と思って調べたらこの映画だった。
で、この先の上映スケジュールをみたらほとんど予約で埋まっている。なので、とりあえず月曜夜の上映回が残り3席ぐらいだったのでとりあえず押さえて観に行くことに。
(※本文途中からネタバレがありますが、まあネタバレがあっても楽しめる映画だとは思います。一応、ネタバレ部分が始まる箇所で「ここからネタバレ」と書きました)
映画公式サイト:あの日、侍がいたグラウンド|J SPORTS
客層はおじさん少なく女性多め
さて今日、映画館に行ったら、月曜なのに大シアターがもう完全に埋まっていて、なんだこれ、って感じ。SNSでも、別に話題になってる感じは観測していなかったのだが。
そしてお客さん、女性が本当に多い! 少女からおばちゃんまでいて、年齢的な偏りもそんなになかった。一方で、いわゆる「野球好きのおじさん」はほとんどおらず、男性は若めのなんJ民みたいな人が多かった印象である。
日本代表の戦いぶりをざっと振り返ると
今回の侍ジャパンは事前の強化試合で苦戦するわ、ダルビッシュやマー君みたいなメジャーで活躍するスーパースターはいないわで、盛り下がると思われていたが、本戦に入ってからの戦いぶりは素晴らしく、徐々に盛り上がっていった。結局日本での一次、二次ラウンドは全勝で、準決勝からのアメリカラウンドに進出したものの、準決勝で優勝国アメリカに1−2で敗れ惜しくもベスト4、王者奪還はならずという感じで終わった。WBCは最初の2回は優勝し、前回はベスト4で、今回は世界王者奪還を期していたのだが、それは成就できなかったわけである。
まあこの結果は、最初のほうはあんまり本気じゃなかったアメリカや中南米諸国やオランダが本気出し始めたので、ある程度順当なんじゃないかと僕は思う。他国のレベルが上がってきているので、最初の2回のように優勝というのは、簡単には行かないので、ベスト4(しかも優勝国アメリカに惜敗)というのは本当に健闘したんじゃないだろうか。
スポーツをドキュメンタリーにするということ
最近のドキュメンタリー映画では特に、AKBの『Documentary of AKB48』シリーズの登場が大きかった。実際にアイドルが「戦っている」その舞台裏は本当に壮絶で、ある意味ではフィクションをはるかに超える強度を獲得してしまった。そういった要素をスポーツ界も取り入れようとしていて、横浜DeNAベイスターズがペナントレース終了後に公開しているドキュメンタリー映画は毎回とても評判が高い。ここ3年ぐらい連続でやっているはず。
▲昨年2016年シーズンのドキュメンタリー『FOR REAL』もけっこうよくできていた。
スポーツチームの裏側に密着してドキュメンタリーを作れば面白いものができてしまう。昨年初めてクライマックスシリーズに出場した横浜(12球団で唯一まだ出場したことがなかった)、そして前評判を覆して健闘した今回の侍ジャパンが題材になれば、面白くないわけがない。
それと、こうしたスポーツドキュメンタリーを観ていて思うのが、本当に情報量が多い。観に来る人たちは、選手たちがどんなキャラクターであり、試合結果がどうなったのかをあらかじめすべて知っているので、説明が省略でき、めちゃくちゃハイコンテクストな映像づくりが可能になっている。もちろん僕も基本的なストーリーを把握していたので、飽きる場所がまったくない。しかも自分がテレビや報道で知り得ない、選手に密着しているからわかる面白い部分だけピックアップできるので、二重三重に今回の侍ジャパンの姿を振り返ることができた。
(ここからネタバレ)
少し例を出すと、三塁手の松田宣浩(福岡ソフトバンクホークス)という選手は、ファールを打ったあとに「おっとっと」と、ちょっと面白い動きをするのだが、映画を観るとなんと、実はその動きを練習しているということが明らかになる。みんなあれは天然で面白い動きをしているだけだと思っていたのに、「練習してたんかーい!」というツッコミがひとしきり入る。他の選手もそうツッコミを入れていて、観客たちもそれに同調するという謎の輪ができあがっていた。
あと、選手たちの絡みが面白いかった。日本ラウンドで全勝し、ロサンゼルスでの準決勝(VSアメリカ)に備えてアリゾナ周辺でキャンプをしていたとき、唯一の現役メジャーリーガーである青木宣親(ヒューストン・アストロズ/今回は主に3番ライト)が、レギュラー野手陣にメジャーのピッチャーの特徴を教えるシーンがある。
青木が「とにかく先制しないと。リリーフの(アンドリュー・)ミラーとかマジで打てないから」「(WBCには出てないけど)シャーザーとかマジで打てないよ」とか言ってると、菊池涼介(広島東洋カープ/二番セカンド)が「でも筒香(嘉智:横浜DeNAベイスターズ/4番レフト)は打てるって言ってましたよ」などと嘘を言い、筒香は「いや言ってないっすよ!(笑)」と返すという、微笑ましいやりとりなども出てくる。なんというか、これは選手同士の関係性の描写を重視しているし、今のファンもそういうものを求めているのだと思う。
あとはやっぱり、オランダ戦で秋吉亮(東京ヤクルトスワローズ)が、普段はヤクルトでチームメイトで、今回オランダの4番を打っていたバレンティンを三振に仕留めたシーン。バレンティンが三振に倒れたあと、秋吉に向かって悔しそうな顔をし、秋吉はドヤ顔で返す。ここは地味に、今回のWBC屈指の名シーンだったと思う。そこもちゃんと映画には出てくる(ただし裏話的シーンはなし)。
いろいろこの映画のレビューを見てると、「特定の選手、特に野手陣ばかりがクローズアップされている」という不満の声を見かけるが、上映時間の都合上カットされるのは仕方ないのかなと僕は思う。いや正直、坂本勇人(読売ジャイアンツ)、牧田和久とか秋山翔吾(埼玉西武ライオンズ)のあたりはもうちょっと掘り下げてほしかったけども……。
総じて思ったのが、『弱虫ペダル』っぽいなぁ、ということで。単にゲームを観戦しているだけではわからない、『SLAM DUNK』以降のスポーツマンガ/アニメ的な部分=つまり選手たちの絆、チーム男子、みたいなものを現実の出来事から味わえるようになっているというのは、面白い変化ではないだろうか。
『あの日、侍がいたグラウンド』を観てわかったこと
ここからは映画の感想なのか、ドキュメンタリー映画を観て改めて今回の侍ジャパンに対しての感想なのかわからなくなってくる。
まず、こういうタイプの映画の場合、そこの境界は完全に融解せざるをえない。
映画を観て改めて思い知ったのが、松田と菊池は、本当によく声を出しムードを作っているということ。準決勝のアメリカ戦では先制点がセカンド菊池のエラーによるもので、最後の決勝点は松田のエラーによるものだった。しかし彼らは守備や打撃でさんざんこれまでチームを救ってきた。今回のWBCで良かったのは、結局「戦犯探し」みたいなことがメディアで盛り上がらなかったということ。1998年のサッカーW杯のあと、FWの城彰二や岡田武史監督へのバッシングはひどく、2006年ドイツ大会や2014年ブラジル大会のときも似たようなことがあったが、今回の野球WBCに関しては全然そんなことがなかった。それはやはり日本のスポーツ文化の進歩としてはポジティブなことだなと。
まあこの映画は、エラーして負けたあとの松田をさんざん映したりして、演出上仕方ないことは理解しつつも、ちょっと戦犯扱いしていたのは気にかかるところであった。僕も含め多くの野球ファンは、準決勝での菊池や松田のプレーを責めるという気持ちはあんまり持っていないと思うのだが、このシーンの場合は、昔ながらのメディアの「戦犯探し」というムードに寄ってしまっていた。
それと小久保監督も大会前にはさんざん無能扱いされていたが、試合前のミーティングでは、持ち前の言葉の力を使って選手をモチベートしようとしていた。小久保監督は、野球だけでなくいろんな本を読んだり講演会などに足を運んで各界の一流の人たちの話を聞いたりと勉強熱心な人だそうだが、そのあたりの持ち味が、代表監督という場ではよく出ていたのではないかと(もっとも、選手たちがちゃんと聞いていたかどうかはよくわからないが……)。
もちろんプロ野球の監督、たとえばノムさんのように試合をたくさん経験しているわけではないから、老獪さみたいなものはないわけだが、代表監督という難しい役回りをしっかりとまっとうできていたのではないか。侍ジャパンは後任探しにいま苦戦しているが、王さんでも長嶋さんでも頼んで力を貸してもらって、小久保にもう一回頼んでみてもいいんじゃないかな……と思った。
(追記:その後、後任監督は稲葉篤紀氏に決まった)
もうちょっと改善の余地が……
ただ、前述の『FOR REAL』にも感じたことだが、映像の場合は、本のノンフィクションとは違って、大本営発表になりがちだということ。コンテンツとしては映像のほうがわかりやすいのだが、都合の悪いことは隠されがちになってしまう。
たとえば坂本勇人の場合、最近ジャイアンツが13連敗して話題になったように、いまの巨人での選手生活は彼にとってけっこう辛いものなのではないかと想像している。そのなかで、菊池涼介と二遊間を組んでプレーできたことで大いに刺激を受けたことだろう。
あ、そうだ。苦言をもう一個言うと、ナレーションはプロのナレーターの方だったが、個人的には、そこを亀梨くんにするとか、そういう豪華さがあってもよかったのではと。客層からも明らかなように、野球というコンテンツのフレッシュさをこの映画はよくアピールしていると思うが、亀梨くんがその流れにもっともフィットすると思うので。もしくは今井翼。
一応これはただの思いつきではなくて、亀梨くんも今井翼も野球好きとして知られているし、亀梨くんは日テレ系「Going! Sports&News」でキャスターをやっていて、その仕事ぶりは古参野球ファンからもかなり評価が高い。そもそもジャニーズ自体がもととも野球チームだったわけで、戦後日本と(もとはアメリカのスポーツである)野球というものを結びつける蝶番のようなものとしてスタートしていて、せっかくだったらそういう隠された戦後日本文化史とのリンクとかもあると面白かったはずだ。まあこれだけ書いてもよくわからないかもしれないが、そのあたりはそのうちどっかで書きたいなと思っている。
(おわり)
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