帝国とレジスタンス、あるいは私の中のストームトルーパー

ドラマ

ダチョウ倶楽部的要素のある『ゲーム・オブ・スローンズ』『ガンダムSEED』『スター・ウォーズ』

現在ディズニープラスで配信・更新中のスターウォーズのスピンオフドラマシリーズ、『キャシアン・アンドー Season 2』を観ている。

僕はもともとティモシー・シャラメ主演の『DUNE/デューン 砂の惑星』が好きなので、最近U-NEXTで配信が始まったスピンオフドラマ『デューン 預言』を観始めようと思ったら予想以上に話が重く、グッタリしていた。

さらに『ゲーム・オブ・スローンズ』も大好きなので、前日譚にあたる『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』ももちろん観ており、たしかに面白かったのだが、『ゲーム・オブ・スローンズ』のときのように何回も観るほどではなかった。

なぜなのか考えたのだが、おそらく『ゲーム・オブ・スローンズ』は、たしかに重い話のところもあるが、主人公格のティリオン・ラニスター、ジョン・スノウ、デナーリス・ターガリエンなどの登場人物が(どれも違う意味で)アホなので、楽しく観られるところがあったのだ。古いネット的表現を使えば、これらのキャラクターにたいして「ちょwwwおまwww」とツッコミながら観られる。コメディリリーフが充実していた、ということだろう。

一方、『ハウス・オブ・ザ・ドラゴン』はそういうコメディリリーフ的役回りがほとんどおらず、ただ重い。さらに『デューン 預言』はひたすらに重さが増していている。おそらく主題はシスターフッド批評、つまり「近年、希望として描かれがちな女性どうしのシスターフッド的つながりの暗部を描く」ということなのだろうが、コメディリリーフが存在しないので観続けるのがまあまあつらい。まあ、最近のアメリカンSFファンタジードラマは「重さ」がマーケティングになっている、ということなのだと思う。

しかし我々ジャパニーズは、『ガンダムSEED』という偉大なシリーズを知っている。この作品は、テーマの深さやプロットの巧みさなどはてんでダメなのだが、各キャラクターが魅力的なアホ(男女ともに性欲に脳を乗っ取られてあらぬ方向に突っ走ってしまう)なので、つい観続けられてしまうのだ。テーマやプロットの優秀さなどよりも、魅力的なキャラクターを立てることがまず重要だと我々は感じている。

そんなことを考えていて連想したのが、『スター・ウォーズ』の旧三部作、新三部作つまりエピソード1〜6である。ジョージ・ルーカスはやはりそこはしっかり押さえていて、しばしば主人公たちが発する「I have a bad feeling(イヤな予感がするぜ)」というセリフが象徴する謎の追い込まれ状況は、ダチョウ倶楽部的なおもしろさがある。我々観客は「結局やられないだろ」と思っているので、そのダチョウ倶楽部的状況を、金太郎飴的なお約束エンターテイメントとして楽しむことができるのだ。

『キャシアン・アンドー』はラストベルト×天安門事件

そんなこんなで『スター・ウォーズ』のことを思い出したので、『デューン 預言』は放っておいて、最近それなりに洋ドラマ好きのあいだで話題になっていたスターウォーズのスピンオフ、『キャシアン・アンドー』を観てみることにした。

……うーむ、なかなか面白い。

一応説明しておくと『キャシアン・アンドー』は、スターウォーズのスピンオフ映画としては特に評価の高い『ローグ・ワン』の前日譚である。『ローグ・ワン』で重要な役割を演じたディエゴ・ルナ演じるキャシアン・アンドーが、どのようにして反乱軍に関わっていくのかを描くことになっている。

ただ僕は『ローグ・ワン』を観たときに、その右翼要素の強さにわりと引いていた。テロとレジスタンス運動に全力コミットすることの怖さに、である。あの路線を引き継ぐと、日本的にいえば二・二六事件の肯定のようなものに行き着くだろうなと思ったのだ。

ところが『キャシアン・アンドー』Season 1は、むしろアメリカのラストベルトで暮らすSomewhereな人たちによる天安門事件のような話である。圧倒的な暴力に虐げられた市民が暴力で正義を実現しようという話ではなく、ただ暮らしていただけの人が否応なく巻き込まれ、生きていることの意味を問い返す物語になっている。

キャラクターもなかなか面白く、帝国軍の官僚側にはキャシアンにやられた恨みを晴らそうとすることで意気投合した「キャシアンアンチ」のカップルがいる。日本的にいえば連合赤軍的、ガンダムSEED的なヤバさがあるのだ。

さらに、スター・ウォーズファンにはおなじみ女性政治家のモン・モスマも登場する。モン・モスマは仕事(元老院議員でありながら裏で反乱活動を支援する)と家庭に引き裂かれている現代的キャリアウーマンであり、始末の悪いことにその娘リーダは、リベラルで先進的な母への潜在的反発から政略結婚と伝統的コミュニティへのコミットを選ぶ。いわば、上野千鶴子的な意味での「父の娘」ならぬ「母の娘」として、ポストフェミニズム的な生き方に身を投じていくのだ。

一方、そのモン・モスマの従妹で年齢的には少し若いヴェルは、むしろモン・モスマの思想的な嫡子である。表面的には金持ちの道楽娘でありながら密かにレジスタンス活動にフルコミしており、レジスタンス仲間の女性シンタとは恋人関係にある。この二人の関係性は、重々しいドラマにポジティブな陰影をもたらしている。

帝国とレジスタンス、あるいは私の中のストームトルーパー

結局前置きがだいぶ長くなってしまったが、『キャシアン・アンドー』は、ルーク・スカイウォーカーやハン・ソロのような「ヒーロー」ではない、一般のレジスタンスの人たちに光を当てるという『ローグ・ワン』のコンセプトを引き継いでいる。面白いのは、今回のドラマでは帝国側の官僚たちの個別的なストーリーにも光を当てている点だ。『スター・ウォーズ』旧三部作における帝国側官僚といえば、ダース・ベイダーにフォースで「わからせ」られるぐらいの存在感しかなかった(メタファーなのに性的な表現ですみません)。

そんなわけで、「反乱軍のヒーロー」ではないレジスタンス、そして「ベイダーでも皇帝でもない」帝国官僚が描かれているので、この「帝国」「レジスタンス」という比喩の現代的な寓話性がわかってくるようになってくる。

「帝国」とはなにかというと、要するに日本でいえば大企業勤めや官僚などの側にいる人たちである。「レジスタンス」とは、その外側の世界に生きる人たちのことだ。

自分の話をすると、僕自身は一橋大学、それと高校も神奈川の有名進学校である浅野高校出身であるなど、「帝国」の出自だが、まともな就職をしなかったタイプだ。日本社会で生きていて思うのが、日本は学歴社会というよりも「一社目社会」である。どんないい大学を出ていようがそこまでクリティカルには関係なく、「リクルート出身です」「ソニー出身です」のほうがさまざまな面で有利である。「帝国」側に行くためには、学歴を登ることは必要だが少なくとも「一社目」まではがんばらなければならず、それ以前にルートを降りた人間は、世間的にはドロップアウターとして扱われる。

僕はいわば、帝国の士官学校にまでは通ったが歩兵部隊へ任官することをせず、かつ幹部候補生学校にも行かなかったので「帝国」の外側として扱われてきて、「帝国」の外側の人たちがいかに「帝国」側の人たちに搾取され、傷つけられてきたのかを、この目で見てきた実感がある。

こんなことを感じているものだから、最近の自分には、高校や大学の友人たちに多くいる「いい大学→大企業」の人たちがストームトルーパーのように見えてきた。仮面のような白いヘルメットと防護スーツを着て個別性を消去し、市民を容赦なく虐げるストームトルーパー。

しかし一方で、自分は弾圧されたり搾取される側でありながら、自分の中にもたしかにストームトルーパーはいる。白い匿名的なヘルメットをかぶり、「帝国」の内側で、「帝国」の外の人たちの犠牲の上に幸せな生を送る、安定した生活に寄りかかりたくなる気持ち、である。なにせ「帝国」出身だからだ。

そしてストームトルーパーたちは、自分の安定した幸せな生が誰かを搾取し傷つけていることで成り立っていることにも気づいていない。というより、それを気づかせないほどに「帝国」の統治システムがうまくできている。

もちろん、白いヘルメットをかぶりながら良心を摩耗させず、密かにレジスタンスに協力する人たちもいる。それと、市民がレジスタンスになるには相当な主体性(自分のテーマを設定する力)が必要になり、それができたからといってうまくいくとは限らない。『キャシアン・アンドー』で描かれるのは、それを「やらざるをえない」という人たちの姿でもある。

現実は『スター・ウォーズ』のようにそこまで苛酷ではない。しかし『キャシアン・アンドー』は、自分は「帝国」側に片足を入れながらバランスを取っていくか、あるいはもはや思い切ってレジスタンスをちゃんと本腰でやっていくか、を考えてしまうような作品になっていると思う。ちなみに個人的にはアウター・リムに行くのもなかなか魅力的だな、と感じる。

こんなことを考えつつ、そういえば20世紀イギリスの作家・批評家ジョージ・オーウェルは、イートン校出身だがオックスブリッジには行かず、当時英領だったビルマで警察官になっていたんだよな、ということを思い出した。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)
オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

編集者、ライター。1986年生まれ。2010年からカルチャー誌「PLANETS」編集部、2018年からは株式会社LIGで広報・コンテンツ制作を担当、2021年からフリーランス。現在は「Tarzan」(マガジンハウス)をはじめ、雑誌、Webメディア、企業、NPO等で、ライティング・編集・PR企画に携わっています。
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